第7話 足立プロデューサー
足立
凄かったよ。リハーサル。
本番は見てないけど。
なにかあったのか?
そう嘘をつき、無造作に名刺を差し出した。
無精髭に黒縁メガネ、Tシャツにデニムの出で立ちに少し驚いた。佑は両手で受け取って
名刺を見た。
テレビMK
制作局 副局長
足立雅弘
佑
すみませんでした。リハーサルと違うことを本番でやりました。生放送でしたので、
勝手に変えた事謝ります。
ダンサーはただの裏方と思われている事が嫌だったんで。
足立
いや、正解だったと思う。
あの若手の宗祐だっけ?
彼等は気づいてないだけだよ。
佑
すみません、ありがとうございます。
足立
あとで録画送るよ、連絡先教えて。
それと、改編で番組作るから頭から出てくれる?事務所入ってる?
佑
いや、入ってません。日本では一ダンサーには事務所は付きません。フリーです。
足立
それは良かった。チアや賑やかしのなんちゃら劇団のあの子らとは違うもんなー。正直驚いたよ。
それと、君、名前は?
ニナ
え!?わたしですか?
ニナです。
足立
何才?
ニナ
18です。
足立は考え込んでいる。
うん、と手を叩くと。
足立
君、事務所紹介するからちょっとだけ仕事しない?ダンスの。
ボス?いい?
足立は佑に促した。
佑
それはニナ本人が決めることなんで。
一旦持ち帰ってもいいですか?
返事は。
足立
いいねー、君はしっかりしてるな。見た目と違って。
面白いよ。今度飯行こうか?
佑
そういう事なら喜んで行きますよ。
あ、お金は自分も払います。
割り勘でお願いします。
足立は笑った。
足立
本当、ぶっ飛んでるわ。
いつ空いてる?
佑
今、帰って来ちゃったんで、、。
暇ですよ。
足立
そうだったみたいだね。
連絡先教えてよ。
足立はそう言うと脇に抱えていた分厚い革張りのスケジュールを開いて、スケジュール帳の間に刺してあるペンを取り出した。
足立
携帯番号と住所教えて。
タスクくんの。
佑
名前知ってたんですか?
足立
あー、アメリカのPV全部見たよ。
奇抜な格好させられてたなー。
笑いながら、メガネを外して、佑の肩を叩いて、抱き寄せると。
足立
大変だったろ、撮影?
ハリウッドは凄いだろ?
佑
はい。あのシーンだけで1時間撮りました。
足立
たった10秒に?!
プロ達のスキルと機材がすげーんだよな。
金額も桁違いだろ?
佑
はい、それにアーティストはダンサーを友達のようにリスペクト、あー、尊敬しています。
日本のようにスタッフから雑に扱われる事はありません。
足立
分かるよ、うん、うん。
足立
でもな、タスクちゃん。
ここは、日本だから。
黙り込む佑。
唇を一瞬噛みしめようとしたが、やめた。
佑
その通りですね。
ありがとうございます。
足立
メシ、スケジュール?
いついつなら空いてます、合わない、だとかのやりとりをし、しばらく談笑した後、来週に決まり、佑達は礼を言ってテレビ局を後にした。
佑は足立との出会いをきっかけに華やかな表舞台からは姿を消し、足立と共に裏方から日本でのダンサーの地位を確立する為に奔走した。
いくつものダンスヴォーカルユニットを立ち上げ、ダンススクールを展開し、海をメインのインストラクターとして育てた。
また、大手清涼飲料水メーカーのメインキャラクターとして海を大抜擢しソロダンスを清涼飲料水と海岸線をバックに流れるCMがテレビで流れ、大ヒットし、海は役者やモデルとしてもデビューする予定まで出来た。
ニナは始めこそ鳴かず飛ばずのダンスヴォーカルユニットの1人だったものの、バラエティ番組の出演がきっかけでキャラクターに火が着き、ファッション誌の数々の表紙を飾り、若者のアイコンと化していった。
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