第6話 佑 ライブM

ニナ

先生、わたし、ヤバイ緊張が半端ない。


オレもっす。どうしたらいいか分かんないくらいぐちゃぐちゃです。


ダメだろそれ?


佑は笑うと、テレビ局の受付で警備員と少し話すと、すたすたと、歩いて行く。

その後ろをリュックを背負って二人がおどおどとついて行く。





スタッフ

リハーサル、はじまりまーす!

宗祐さんからお願いします!!


慶太

音お願いします。マイク上げてください。

あ、低音強めで!


慶太

ターボ、立ち位置大丈夫?!


バミリってつくの?


スタッフ

あー、付けられます。

どこにしますか?


海もニナも緊張でガチガチに固まっていた。

スタジオセットではインパクトドリルの音や、大工仕事のカンカンとクギを打つ音、スーツ姿の女性や大人達、ヘッドセットをしたスタッフが何人も台本を手に手際良く動いている。カメラも数台にハンディカメラを携えて座ってバッテリーを交換しているスタッフにケーブルを抱えて汗だくの青年など、ざわざわとしたなかにも緊張があり、時折、ハウリングのキーンと高い音に混じって低音の声でスピーカーからスタッフらしき声で指示が出ている。


ディレクター

照明大丈夫? 

カメラ、位置、ハンディもう少し寄って。


スピーカーからディレクターの声だけ聞こえる。


スタッフ

ではキュー出しますか?

宗祐さん出しますか?


慶太

キューお願いします。


佑はニナと海に立ち位置を指して、

テープの位置につく。


いいか?二人、リハでも全力だ。

流すなよ。本番その方が気楽になる。

わかった?


二人はコクンとうなずく。


 


数えきれない星をならべて、

あどけないあの姿よ、もう一度。




ドラム音が入る。タンツクタンツクタンツクツッツッ。


 

最初のストリングスに合わせ、佑達は後ろ向きから頭を振り手を大きく回しながらターンして向き直す。

佑が下がり、海とニナが前に入れ替わると

二人が静止し、佑だけが顔、肩、足の順に左を向くと、海とニナがカノンで遅れて続く。


アコースティックギターの音が入ってくる。


足音をしのばせ、君が僕の

背中にそっと、おでこをつける



足立プロデューサー

なんだ、あのタスクってダンサー、、。

凄いぞ。


番組総合プロデューサーの足立は

モニター越しに動きを見入ってしまって。

マイクスイッチを押した。


足立

ハンディ動くな!

2カメ!

センターのダンサー寄って!

3カメ!女の子のダンサー抜いて!


佑達は息を切らさず。曲を終えた。

三人ともに完璧だった。


慶太

ターボ!すげーな。オレら適当に力抜いてんのに。


プロなら当たり前だよ。入念な事前チェックだよ。


談笑しながら、楽屋へと向かって行った。

リハーサルが続く巨大なスタジオセットの中、リハーサルを行うアーティスト達に海とニナははしゃいでいた。慶太と佑は打ち合わせをしながら世間話をしていた。

そうしてあっという間に本番になってしまった。


スタジオのセットのひな壇には数々のアーティスト達が続々とスタッフに案内され、おのおの談笑していた。


スタッフ

CMあけまーす!5.4.3


最終確認をした海とニナは

前室でモニターの前で首をゆったり回す佑を見ていた。


佑さん、緊張することあんのかな?


ニナ

見たことないよ。そんなとこ。

間違えも振り飛ぶのも見たことないもん。


スタッフ

間もなく本番になります。CM入るタイミングでお願いします。


佑は後ろを振り返ると手を開いて二人の前に出した。海とニナは普段通り、佑の手を上から音を出さずにかざした。よしっと小さな声を出すと立ち位置に着く為にスタジオセットに歩きだした。一段と大きな拍手で迎えられた宗祐のリーダー、慶太はひな壇に視線で静寂を促した。



数えきれない星をならべて、

あどけないあの姿よ、もう一度


慶太の声量溢れるアカペラから入る。


タンツクタンツクタンツクツッツッ


ドラム音が流れ出す、佑は頭から動き出さずに、海とニナだけがターンする。

遅れて佑がターンした。

海とニナは気づかずに続けている。

曲は進み


アコースティックギターの音が入ってくる。


足音をしのばせ、君が僕の

背中にそっと、おでこをつける

あの日々を思い出す、すべて狂い出す

だから、そっと、そっと。


佑は慶太の前を歩き、止まり、フロアと呼ばれる動きで一瞬で座り、右足を大きく回すと、方手ではひじをつき、また戻して、左手を軸に音も立てずに後ろに転回し、立ち位置に静かに戻ると海とニナの肩を押し、慶太の両サイドに付けると、

スタジオセットからからそっと出て、前室に戻って行った。

それは見事だった。足立プロデューサーも感心した。

新曲はラップパートがない切ないバラードで

ラッパーがいなく、DJとして再背面にブースがあり、そこメンバーのDJがいる。立ち位置もラッパーがいて、五人ならバランスが良いがヴォーカルが一人とダンサーが三人だとダンサーにも目が行ってしまう。アーティストありきのダンスなのは明白だった。にぎやかしではない。慶太もそれは望んでいなかった。大サビ前のメロディでソロをこなして、佑はしずかに無音部分で自分も鮮やかに消えたのだった。当然、ラストのサビは慶太の情熱と圧倒的な声量、表現に、海とニナは抜群の引き立て役になった。ひな壇で感極まる若手アイドル達の姿をカメラは抜いていた。 

本番の新曲披露はオールスタンディングと大拍手で幕を閉じた。



慶太

おまえ、なんだよ!!あれ!

リハと違うじゃん!!!


いや、オレがあってる


慶太

違うだろ?リハと!


その場で変えたわけじゃない。

ちゃんと理由はある。


慶太

ダンサーだろ?演出なんて頼んでないよ。 

なんだよ、こいらつらなんて残して。


今、なんて言った?!

あ??


今なんて言ったんだよ!?


慶太

おまえ変わってないんだよ。

早いんだって。やる事が。

時代が追いつけないんだよ。


わかった。もう帰るわ。

海、ニナ、帰るぞ。


そう言うと楽屋へと荷物を取りに戻って行った。無言で着替え、荷物を片付けている佑に

海とニナは近寄れなく、言葉も出なく、着替える事も出来ずに衣装の上からパーカーだけ被り、リュックを背負った。

佑が外に出て長いロビーに続く廊下を歩いていく。


足立

君!!ちょっと待って。


佑達をプロデューサーの足立が廊下の先で待ち構えていた。

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