19

 明るい天井。見慣れた光景だ。


「コーラル?」

「気が付きましたか?」


 その光景に、同じ顔が覗き込む。首は繋がっている。

 触れたいと伸ばす手に力は入らず、伸ばすのを諦めれば、握り返された手が互いの首へ触れさせられる。


「生きています」「生きてるよ」


 今にも泣きそうな顔で、手に触れる双子は、小さく息を吸う私の言葉を聞き逃さないように、じっと見降ろす。


「――疲れた」


 囁くような言葉を聞いた彼らは、驚いたように目を丸くすると、笑った。


「起きて一番がそれぇ?」

「怠惰の象徴みたいな方ですね」

「なら、寒い。お前たちのせいね」

「ひどい人だ。僕らがその言葉に弱いことを知っていて言うんですから」


 おずおずと大きな体を丸めて、コーラルにくっつくアレクに、クリソも捲りあがった布団を掛け直すと、少しだけ傍に寄り横になる。

 その様子に、少し目尻を下げるコーラルに、本当に少しだけ唸るともう一歩だけ擦り寄る。


「少し、疲れました」


 素直に口にしたクリソに、喉の奥で笑えば、脇辺りで押し付けてくる何かを掴み撫でる。

 そうすれば、大人しくなる頭。


「コーラル、倒れて、怖かったんだよ?」


 あの時、精霊の気配がした。魔法に手を貸す生易しいものではなく、星祭に現れたような巨大な精霊の気配。

 そいつが、コーラルを連れて行こうとしていることだけはわかった。

 息をしているのに、目を開けなくて、こうして目を開けて、会話をするまで、生きた心地もしなかった。


「ちゃんと生きてるでしょ」

「ぅん」


 いまだ体温を確かめるように触れるアレクとクリソを拒まず、指で遊ぶように触れ返す。


「それにしても、さすがにふたりの死の否定は、厳しかったわ」


 時間として数分かもしれない。

 だけど、あの時、意識なんてなかった。目に見えているふたつの光、ただそれだけを、途切れさせてはいけない。見失ってはいけない。

 ただそれだけ。それ以外は、覚えていない。


「あの後、どうなったの?」

「フフ、ようやくですか。普通、最初に聞くものですよ」

「目の前でお前たちが生きてれば、答えでしょ」


 今起きたというのに、もうすっかり瞼が重くなっていた。


「俺らも、首切られて死んでるんだけどー」


 頬を膨らませ、不貞腐れるような声を上げるアレクと、その頬を突いているコーラルに、クリソは小さく笑う。


「では、僕が寝物語に聞かせますね」


 後で、礼を言わなければと思いながら、その温度に徐々に声も瞼も落ちて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人魚は地上で星を見る 廿楽 亜久 @tudura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ