第3夜 夜明け前
就活が終わった。
結果は、多分負け。
形としての内定は貰ったが、満足しているかと言われればそうでもない。そもそも内定を貰う段階で満足するというのもよく分からない話なのだが、端的に言えばやりたいことができる会社ではないということだ。
それでも会社から必要とされたことは嬉しい。嬉しいのだけれど、冷静に、働きながら勉強をして資格をとってやりたい仕事をしようと算段している自分がいる。
さて、これからする話は体験記という程でもない、読み飛ばしても問題ない話だが、本題だ。
ついでに、あまり整理せずに書いていることも容赦してほしい。
まず、私の就活について簡単に説明しておく。
3年の6月から始めて、インターンや会社説明会にも多く参加した。志望していたのは「文字を書くことを仕事にできる会社」だ。新聞社とか出版社とか、そういうの。
心の底から行きたいと思う会社は新卒の募集をしておらず、私には第1志望といえる会社はなかった。
そして、就活を始めてから約1年半でようやく内定を得ることが出来た。
この一年半で私が得たものと失ったもの、これを今日は話したい。
まずは得たもの。
当然、これは内定だろう。
特に説明することはない。
他に思いつくものも、ない。
次に失ったものだ。
安定した生活。安定した情緒。自信。好きなもの。嫌いなもの。やりたいこと。自分。
他にもまだまだある。
就活をすると睡眠時間や食事の時間をどうしても削ってしまう。もっと上手くやっている人ももちろんいるだろうが、少なくとも私には出来なかった。
そうして出来た時間も全て就活に注ぎ込んだ。エントリーシートを書いて、企業を調べて、自己分析をして、SPIの勉強もして……
追い込むだけ追い込んで、それでも飽き足らずに結果を出せない自分を責めたりもした。周りには悟られないよう笑顔で振る舞ったものだから、余計自分が惨めに思えて辛かった。
次第に友人たちが内定を貰っていく度、社会に必要な人間とそう出ない人間の境界線が鮮明になり、境界線はいつしか壁になって私と友人たちの間に鎮座した。
ああ、自分はなんて必要のない生き物なんだろう。もう終わりにしたい。
毎日頭の中を流れていた言葉だ。
社会に出て働くことは、人それぞれ意味が違う。他人のため、お金のため、家族のため。
形は違えど、大切なもののために働いている。なのに私にはその権利が与えられないのだと思った。
正直、大手の企業に入りたいとか、見栄を張りたいとか、そんな感情は一切なく、自分のやりたいことが出来るならどんな大きさの会社でも良かった。だが、会社は私なぞ要らんと言った。どの会社も。
自己肯定感というものが無くなっていく。何をするにも劣等感が付きまとう。
何にもできないくせに飯を食い、寝て、息をしている自分。申し訳ない気持ちになる。
社会のお荷物なのにどうして私はこんなに生にしがみつこうとしてしまうのだろう。
いっそ死のうかと思ったことが何度もある。
眠れない夜に、迷惑をかけない自殺方法を調べる。樹海がやっぱり良いらしい。でも樹海を維持してる人がいるから結局迷惑はかかるようだ。
死ぬことを考えている時は、生きていても良い気がした。矛盾してるようだけど事実だ。
次第に何がしたいのか分からなくなった。
なんで就活をしているのか。なんでこんなことで死にたくなってるのか。鈍くなった脳みそでは何も分からない。もう就活という概念に触れていないと不安になるようになっていたのだ。
形だけでもやらなければ。分からないけど、説明会に参加しなければ。選考に通らなければ。どこでもいい、なんでもいい、自分を肯定してくれる何かが欲しい。ここにいても良い理由が欲しい。
この話を読んでいるあなたは、読んでみてどう思っただろう。
私には分からないが、私からみた就活はこれなのだ。
小さい頃、散々大人に持てと言われた夢を、大人にぶち壊される儀礼。
もちろん夢を叶えて生きていく人もいる。
私だってまだ終わった訳では無い。
それでも新卒という立場で、これからの一歩を踏みしめるという時に奪われた沢山のものがもう帰ってくることは無い。残されたのは、それを取り返すチャンスだけだ。
もうすぐ私は就活をやめる。
内定を貰った今、少しずつ薬に頼らなくても眠れるようになった。日中に映画を見て感動出来るようになった。
ただの大学生だった頃の当たり前をゆっくり取り戻す中で、本当に大事なものが見えてきた。
これから就活を頑張る誰かがもしこれを読んだなら、怯えさせるようなことを書いて申し訳ないと思う。
あくまでも私の世界で起きたことだ。
だから大丈夫、とは言えないが何か思うところがあって、反面教師的に捉えてくれたら幸いだ。
中々夜中 秋野眼鏡 @39ra_39
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