第2夜 狭さ
私は心が狭い。
私は他人に対して、こうあって欲しいという理想の形がある。例えば、挨拶をきちんとして欲しいとか、感謝することを大切にしていてほしいとか。私の中では至極当たり前の事だと思っているし人として最低限のマナーだとも思っている。だから、この形から少しでもはみ出た人間のことが嫌いだ。
高校生の頃、人と関わることが苦手な自分を変えようと接客のアルバイトを始めた。それから大学4年生の今まで店や業種を変えつつも「接客」を続けている。最初に比べれば流暢に話せるようになった。これは進歩。ただ、最初よりも他人の欠点によく気づくようになった。正確に言うと、客の欠点。
こちらが何を言っても返事をしない、感謝の言葉もない。やってもらって当たり前、自分の要望を並べるだけで話を聞こうとしない。
客目線では気づかなかったであろう人の汚さが店員になると嫌になるほど分かる。
しかも驚くべきは、大半の客がこのどれかに当てはまるという点だ。
大人のくせに。
社会人のくせに。
レジで商品を通しながら頭の中で繰り返している。
私の「嫌いな」客たちは何故か社会の一員として機能していて馴染んでいる不思議。
人として当たり前の気持ちを持ったまま就職活動をして、誰からも必要とされない私。
どこかでボタンをかけ違えていると思う。私の思い込みで事実は歪んでいると思う。
けれど整合性を取れるほど今の私は安定していない。
毎日ぐらぐら揺れている。
今見えているのは、偉そうにふんぞり返った最低の大人たちが社会を回していることと、私の内定は決まらないということだけだ。
自分を嫌いになれば上手くいくのだろうか。
嫌いになることで多少、心は広くなるんだろうか。
広い心を手に入れた私は、心が狭かった頃の私を見て、なんて言うんだろうか。
意地汚い、人として終わってる大人たちみたいに、目も合わせず偉そうに自分の要望だけ押し付けるんだろうか。
だったらずっと狭いままでいいんだけど。
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