第8話

 次に星月が向かったのは体育館だ。運動系の部活か?


 体育館に近づくに連れボールの跳ねる音や靴が体育館の床を擦った時になる甲高い音が聞こえてくる。


「次は何部だ?」


「バスケ部ね。マネージャーが居るはずだからその子に聞けば問題ないはずよ」


 星月が指差す先には数人の女の子たちがいた。彼女たちは時折コートを走り回る生徒を応援しながら談笑していた。


 その女子たちに星月が歩いていく。


「ちょっといいかしら?」


「あれ? 星月さん。風紀委員の仕事?」


 数人の女子の中の一人が星月に反応した。どうやら同じクラスらしい。


「いえ、生徒会の方ね」


「ああ、そうなんだ。それでどうしたの?」


「バスケ部がしっかり活動しているか確認しに来ただけよ。もう終わったから帰るわね」


「え? あ、うん。お疲れ様」


 星月がこちらに来た。あの僅かな時間の会話で疲れた顔をしている。


「随分あっさりだな」


「こんなものよ。さっきのが問題だっただけ。どうせ運動系はしっかり活動しているし問題無いはずよ。はぁ」


「どうした? 苦手なのか? ああいう系の女子が」


「そうね。私って結構話しているとその気がなくても冷たく受け取られることがあるから。ああいう系の女子と話す時はできるだけそう言う所を出さないように気を使っているのよ」


「なるほど。その気遣いは俺にも回してくれたりしないのか?」


 ギロリと星月が俺を睨んだ。


「そんな事するわけ無いでしょ? あの馬鹿達は勝手に被害妄想を発動してどんどん私の知らない所で私の問題行動を量産するのよ。中学校のときは酷かったわ。少し煩わしかったからそう言っただけなのに知らない間にクラスの生徒の前で暴言を吐きまくったとか言う話になっていたし。あなたはそんな事しないでしょ。だから素の私で行かせてもらうわ」


 いや、普通に傷つくから辞めて欲しいんだけど……。


「まぁいいや。俺も自分の仕事に行ってくる」


「ええ、分かったわ。あなたに振った数はそこそこ少ないから終わったら生徒会室で何もしないで大人しく待ってなさい」


 なに? なんでそんな事言ったの? 俺殺されるのか? お前を殺すから大人しく待ってろって言ったのか?


「ゲームとかしてたら分かってるわよね?」


 そう言った星月の微笑みが怖い。何だあの微笑み方、鬼でも宿ってんじゃないのか?


「あ、はい。分かりました」


 いつまでも微笑んだままの表情を崩さない星月から逃げるように俺は階段を駆け上った。


 1つ目は吹奏楽部だ。吹奏楽部の部室の前につくと俺は扉を数回ノックした。


 暫く待つと向こうから戸が開いた。との隙間からひょっこり顔を覗かせたのは女生徒だった。


「はい? って霜月じゃん。ゲーム中毒が何のよう?」


 誰だこいつ。なんで俺の名前知ってるんだ? 同じクラスか? 取り敢えず知ってるふりしとくか。


「生徒会の仕事です。はい」


「生徒会?」


 女生徒の視線が俺の腕の腕章に向けられた。


「ああ、生徒会に入ったんだ。部活やりたくないあまりに入ったってこと? ウケるんだけど」


「ハハ。取り敢えず中に入らせてもらっても良いか?」


「あ、うん。どうぞ」


 音楽室に入ると10人以上の生徒が各々の楽器を触っていた。楽器を弾く準備でもしているのだろう。


「おや? そちらの方は?」


 俺に気が付いた男子生徒がこちらに来た。靴の色が3年生を示している。部長だろうか?


「生徒会の者です。幽霊部員の数など視察に来ました」


「ああ、生徒会の人。今年の生徒会はちゃんと活動してるんだ。関心関心」


 去年までの生徒会は活動していなかったのか。まぁ生徒会のシステム事態にそこそこ無理があるからな。部活動と委員会と生徒会を一緒にやっている生徒がいたら手が回るはずもない。


「ええ、お陰様でちゃんと活動させて頂いています。それで幽霊部員はどれくらいいますか?」


「ああ、ウチは一人かな。でもその聞き方気をつけたほうが良いよ。他の場所は知らないけど部費に影響があるって知っている部長さんは普通に嘘つくから。大体幽霊部員なんて分からないからね。今欠席してるとか言われたらどうしようもないだろう?」


 確かにそうだ。もう少し慎重に行動するべきだったかも知れない。


「なるほど。ありがとうございます。そのようにさせて頂きます」


「うん。頑張って。今年の生徒会には期待しているから」


 俺はそのまま部室を出ようとした。すると先程の女生徒が俺のもとまで来た。


「霜月って敬語使えるんだ。意外」


 俺を何だと思っているんだ。怒っていいかな?


「まぁ多少はね。じゃあここで」


 俺は失礼ガールに適当な返事を返し部室を出た。緊張した。早く仕事終わらせてゲームしたい。


 そんな適当な気持ちで3件程部室をめぐり最後の部活手芸部に来た。


 港塚の所属する部活動だ。やはり彼女は彼女なのだろうか? それとも彼なのか。やはりちゃんと目で確認しないと信じられない。


 もしかしたら手芸部の部室に入ったら分かるかも知れない。そんな気持ちで扉を開けた。


「な、何だと!」


 手芸部の部室の扉を開けた俺の目に飛び込んできたのはフリフリのピンク色のドレスを着た港塚だった。

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