二話

第7話

 ホームルームを終え生徒会など放置して帰ろうと教室から出ると何故か星月が腕を組み教室の前に立っていた。


 多分俺じゃないな。風紀を乱す犯罪者が1-3にいるか、睦月を迎えに来たのだろう。俺は帰らせてもらおう。


 星月の横を通り一階に続く階段を目指しそのまま帰ろうとした。


「ちょっと待ちなさい。なんで普通に帰ろうとしているのよ? 馬鹿なの? 生徒会の仕事があるの忘れないで」


「おっと! 今まで部活もやって無かったし、そのまま帰る癖が付いてたみたいだ。危ない危ない帰る所だった」


「白々しいわ。死になさい」


 何だこいつ。普通ポロッと死ねとか口に出るか? 実は裏で人殺してんじゃないのか?


「まぁいいわ。睦月さん呼んでくれる? 今日から生徒会は動くわけだけど、取り敢えず睦月さんの指示を仰ぎたいの」


「分かったよ。ちょっと行ってくる」


 俺はくるりと反転して教室に入ろうとした。ちょうどそのタイミングで港塚が教室から出てきた。


 そう言えばこいつ男だったな。


 視線を下に下げたが何故だろう? 港塚が女子用の制服とスカートを履いている。やはり女だったか。


 そうだよな。こんなに可愛い男がいるはずがないからな。きっと睦月はスマフラのやりすぎで男女の性別を正確に認識できなくなったんだろう。


「あ、霜月くん。おはよ。うーん……。放課後に言う言葉じゃないよね。ごめん。休み時間に声かけようと思ったけどゲームしてて反応してくれなかったし昼休みは何処かに行ってて見つからないし困ってたんだよ」


 今日の昼は徹夜していたせいで無駄にテンションが高くなり普段より集中してゲームをやっていたし、昼は星月の襲撃を恐れて屋上に隠れてゲームをしていた。そのせいらしい。申し訳ないことをした。


「ちょっと待ちなさい。今ゲームをやっているって言った? 今日は持って来ていないと思ったのにそう。出しなさい」


 港塚の話に反応した星月が俺の背負ったリュックを奪おうと手を伸ばした。


 だが渡す訳にはいかない。さっと身を翻し星月の攻撃を回避しした。


「ごめん。港塚! 明日な」


 俺は港塚と教室のとの隙間をすり抜け教室に駆け込んだ。


 えっと……。睦月は何処だ?


 教室を見渡すと十人前後の人集りを見つけた。


「睦月さん! 今日はどう? 一緒にカラオケとか行かない? 男子も少し居るけど変な事する訳じゃないし」


「アハハ。えっとごめんね? 今日から生徒会の仕事が本格的に始まるから難しいかも」


「そんな事言わずにさ。ちょっとだけだし」


 やはり生徒会長に選ばれるだけあって睦月はかなり人気のようだ。それにしてもあいつの周りにいる奴ら、それ合コンだろ。まさか進学校にそんなことをする奴らが居るとは思っていなかった。


 睦月も困ってるみたいだし助けるか。


「生徒会長、時間です。そろそろ生徒会室に行きましょう」


 俺が睦月を取り囲む集団に聞こえるようにそこそこ大きな声でそう言うと全員一斉に俺を見た。


「何? ゲームオタクの霜月が何のよう?」


 今しがた睦月にカラオケの誘いをしていた女生徒が俺に突っ掛かってきた。


 というか俺ゲームオタクって思われてたんだな。まぁ正解だけど。昨日の夜の通話を聞く分には君達がカラオケに誘おうとしている睦月も俺に匹敵するゲーム好きだぞ?


 面倒くさいからコイツラ無視でいいや。反応しても喧嘩になるだけだろう。それに俺が声を掛けたい人にはしっかり届いたみたいだからな。


「みんなごめんね? 霜月くんも生徒会のメンバーなの私を呼びに来たみたい」


「そ、そうなんだ。が、頑張ってね」


「うんありがと行ってくる。行こ、霜月くん」


 睦月が俺の手を引き俺達は教室の外に出た。


「ふぅ。ありがと。霜月くん。助かったよ」


「やっと出てきたのね。睦月さん」


 星月が俺を睨みながらそう言った。ゲームの件まだ諦めていないらしい。


「ご、ごめんなさい。えっと今日から本格始動だけどよろしくおねがいします」


「ええ、よろしく。基本的な指示出しは貴女に任せるから本当によろしくね?」


「うん。わかった。今日は取り敢えず生徒会室に行って取り敢えず各部活問題がないか視察に行きます。中等部も時間があったら行きます!」


「分かったわ。取り敢えず生徒会室に行きましょう」


 どうでも良いけどその仕事って生徒会の仕事なのだろうか? それとも風紀委員の仕事なのだろうか?


 どちらにせよ生徒の仕事では無い気がする。


 北野先生だな。あの人なら自分の仕事を生徒に押し付けるくらいやりかねない。


 生徒会室に入り生徒会長専用の机を確認すると二枚の用紙が置いてあった。


「なになに? なんて書いてるの?」


 睦月が無邪気に俺の横に立ち俺が持っている紙を覗き込んだ。


『視察ついでに1年の部活動未参加者に引導を渡して下さい。あと部費の使い道についても調べて下さい。本当は私の仕事だけど全部よろ☆ 美人若手教師:北野玲奈』


 グシャリ。取り敢えず北野先生の手紙は闇に葬っておこう。俺は丸めた北野先生の手紙をゴミ箱に投げ入れた。


「やっぱり北野先生は変わらないなぁ。あれでもいざという時はちゃんとしてくれる先生なんだけどね」


「なんだ? そうだったのか。ただのダメ教師かと思ってた」


「そんな事はないよ? 去年までは中等部の先生だったから知ってるけどちゃんとする時はちゃんとするんだよ!」


「それはつまり普段はちゃんとしていないという事だと思うのだけれども……。それもう一枚が紙あるわよね。それは何?」


 俺は握りつぶした紙ではない方の紙を確認した。どうやら部活動に参加していない1年の名簿らしいバッチリ俺の名前が書かれている。


 取り敢えず俺の名前の所には斜線を入れておこう。俺は生徒会に入っているから問題ないしな。


「サラッと自分の名前を消したわね」


「消したね」


 何故か二人が俺を冷たい目で見てくる。


「俺だって委員会に入っているんだから部活動は免除されるだろ?」


「そうなのだけれども……。まぁ良いわ。各部活を回りましょう」


「ちなみに視察って何するんだ?」


「ちゃんと活動しているかと幽霊部員の人数で6月にある部活動の部費会議に結果が反映されるんだよ」


「なるほど、でも3人で全部活をめぐるのは効率が悪くないか?」


「そうね。数も多いから時間がかかるわね。その辺りは睦月さんに任せるわ」


「うーん。じゃあ別行動で。今回は同好会は関係ないから視察しないでね。終わったら一回生徒会室に集まって時間があったら中等部の生徒会に挨拶しに行きます」


 なんか大変そうだな。


 事前に睦月が纏めていたらしい俺が視察する予定の部活が書かれた紙を睦月から受け取ると軽く目を通した。俺の回る部活動は文化系らしい。


 その中には手芸部の視察も割り振られていた。


「あ、霜月君はこれ付けてね。てってれー『生徒会の腕章』」

 

 某国民的アニメのひみつ道具のような効果音を自分でつけて睦月が俺に腕章を渡してきた。


「霜月君は生徒会ですって名乗っても信じられ無さそうだからね。ちゃんと付けないと何しに来た! って言われるからね」


 確かにそうだな。無駄ないざこざを避ける為にもしっかりと腕章を付けておこう。


 まぁいざとなったら生徒会の権限で脅せばいいだろう。そんな適当なことを考えながら俺は生徒会室を出た。


 まずは演劇部だ。活動場所は旧校舎の二階らしい。それより懸念点が1つある。


「星月はなんで俺と同じ場所に向かって歩いているんだ? ストーカーなのか?」


「は? そんな訳無いでしょ? 馬鹿なの? 私も文化系の部活を重点的に振られているのよ」


「そうなのか。じゃあ最初の一箇所だけ見学させてもらっていいか?」


「良いけど、参考になるかわは分からないわよ?」


「いや、俺が勝手に動くより参考になると思うんだよな。ちなみに何処の部活を視察するんだ?」


「合唱部よ」


 この学校合唱部とかあったんだな。まぁいい。星月の手腕を篤と見せてもらおうか。


「失礼するわ。生徒会の星月よ。ちゃんと活動しているか視察させて貰うわね」


 星月がいきなり開けた扉の先には男女、仲睦まじ気な光景が展開されいていた。


 その光景に俺の中の合唱部のイメージが崩壊した。


「合唱部ってなんだっけ? 男女でパッキー食べさせ合うのが合唱部だったのか……」


「そんな訳無いでしょ。無駄に申請する部費が高いと思ったらこいつら部費でお菓子買っていたのねクズね。少しいえ、かなり問題ですね。この件は報告させていただきます」


 星月が部長らしい生徒に向かってそう言うとその男子生徒が慌てて立ち上がってこちらに来た。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。勘違いだ。このお菓子は自腹だよ」


「では先月買ったと報告があった高音質マイクはどちらにあるのでしょうか?」


「ああ、それね。ちょっと待っててくれ。見せるから」


 一瞬男子生徒がニヤリと顔を歪めて棚に向かって歩き始めた。そしてすぐに棚から少し大きめの箱を持ってきた。


「これだよ。高いからまだ箱に入れてるんだけど良いマイクだよ。これを人数分買ったから結構高かったんだよ」


 果たして合唱部にマイクが必要なのだろうか? 学校のマイクで良くないか? それにあのマイク何処かで見たことが……。


「そう、ちゃんと申請通りのものを買っていたのね。ごめんなさい」


「そうですよ。今は休憩中なんですよ。ここに居るみんな付き合ってるから、少しイチャイチャしてただけです」


 よくそんな事堂々と言えるな。それよりもあのマイクのことがすごく気になる。一見高そうな外装をしているがすごく既視感がある。


「どうしたの? 霜月くん。ただでさえ変な顔が更に変になっているわよ」


「変とか言うな! 自分で言うのは何だが俺は父親似だからそこそこイケメンだぞ。妹だって美人の母を……思い出した!!」


「何? 急に自らの容姿を自慢し始めたかと思ったら叫び始めて怖いのだけれども」


「いや、それについてはごめん。だがそのマイク安物だぞ。外装だけ高そうで俺の妹も俺の誕生日に買ってきたんだよ。『これ高いやつだよ。喜んでよね!』とか言って軽く調べたら千円だった」


「サラリと悲しい話しないで貰えるかしら、あと人から貰ったプレゼントの値段なんて調べるものでは無いわ」


 星月はこめかみをグリグリと抑えて呆れた目で俺の目を見てきた。あれ、ここは俺が褒め称えられる場面では?


 部長らしき生徒は冷や汗をダラダラ垂らして明後日の方を向いている。そしてその後ろにいる生徒は俺をゴミを見るような目で見てくる。


 そ、そんなに値段調べるのだめだったのか? 同じくらいの値段のプレゼントを返してやろうという兄なりの優しさだったのに……。


 何故か目から汗が溢れてきそうだ。


「霜月君の残念な行為は放っておいて、その安物のマイクを買って残りの部費を何処にやったかね。前年度の部費は20万ほどあったはずだけれども、部費の支給は6月、遊びに使ったのであればもうほとんど残っていないでしょうね」


「それはそうと去年の生徒会と教師は何をしていたんだ? こんなのちょっと調べれば分かるし報告書にだって矛盾があるだろ」


「まぁ調べてなかったんでしょうね。まぁ良いわ。次に行きましょう」


「良いのか? これ大問題だろ?」


「睦月さんに連絡しておこうと思ったけど連絡先を知らないわ。あなた知ってる?」


「ああ、一応RIMEじゃないからすぐに繋がるか分からないけど送っとく」


「じゃあ後は睦月さんに任せましょう。私達の仕事は視察だしね」


 それはそうとやっぱりこれ生徒会の仕事じゃない気がする。そう言えばこれ北野先生の仕事だったな。


 あの人絶対後で怒られるぞ。


「それでどうするのかしら? 自分の仕事に戻るの?」


「いや、今のが特殊な例過ぎて参考にならないわ。もう一つだけ見学させてくれ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る