第6話
しばらく経ってからの事だった。ドアが開いた。
「おっ? 元気になったか?」
入ってきたのは酒場のマスター。
・・・・・・
「吸血鬼―――――。」
「あぁ、やっぱそうなるな。」
私は気を許さない。この先何があっても、私はこの人たちに気を許すことはないだろう。この世界はイカれている。
すると、マスターはドアを開けたまま後ろを振り向いて言った。
「おい、こっからどうすりゃいい?」
マスターがそういうと、立っているマスターを避けるようにして、もう一人入ってきた。さっきの黒衣を来た夜空色の髪の青年だった。
「なるほど。確かに大丈夫そうだ。」
「・・・・・・」
この男もそうだ。さっきまでの話から推測するに、この二人は十中八九親子だ。となると、親父が吸血鬼であるなら、その息子であるこの男も吸血鬼の可能性が高い。
夜空色の髪の青年が話を切り出した。
「これから少し話が長くなる。君のためにも重要なことだ。覚えてほしい。」
「・・・・・・」
・・・バカバカしい。
気が付けばこの時、外は夕暮れだった。青年の長い話を聞き終え、気が付けばとんでもない真夜中になってしまっていた。
私は今でもこの二人を信用しない。信用していないけど・・・
「ほらよ。とりあえず食えるかどうかわかんねぇけど食っとけ食っとけ!」
・・・二人の厚意によって、食事を一緒に取ることになった。信用していないのは山々であるが、空腹はどうにもならない。とりあえず、とりあえずは食事はありがたくいただいておこう。今の状況では。
この日は私と酒場のマスター、そして夜空色の髪の青年の3人で食事をとることになった。
「どうだ? 食えるか?」
「・・・・・・」
私は目を丸くした。これは意外だった。吸血鬼の食事と聞いて予想はしていたが、出てきたのは山盛りのサラダ。中身はレタス(のようなモノ)とかブロッコリー(おそらく)とか、豆(これは確実)とか、私が食べてきた病院食のサラダと基本的には同じように思えた。
しかも、このわずかながらの微妙な差異、サラダに含まれる豆の量、それが明らかに多い。もしかしたら、この人たちの食事の主食は・・・豆。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人とも私を見ている。仕方ない、私は思い切って、テーブルにあったフォークでサラダに突き刺し、口に運ぶ。
「おっ、食った。」
「・・・どうだろうか。」
・・・・・・!
「うっぷ。」
「おっ、おい!!」
私は今口に運んだものを吐きだ
さなかった!
「うまい。」
「おおっ!?」
なんという事だろう。病院で今まで食べてきたサラダより明らかに旨い。この圧倒的に多い豆自身に味がある。私は次から次へとサラダを口の中に運ぶ。
「なんだ! 思いっきり食えるじゃねぇか! おら! どんどん食いやがれ!」
「(モグ! モグ! モグ! モグ! モグ!!)」
言い忘れていたが、このサラダにドレッシングのようなものはかかっていない。豆とサラダが織りなすハーモニーがたまらなく絶品!
「驚いた。食事は普通にとれている。食文化が近いのか?」
青年が適当な事ほざいているが今は無視。食えるうちに食っておく!
あー! うめぇ! うめぇ!
「おっと、そうだ。こいつも食えるか?」
「?」
「特性スープだ。」
そういって酒場のマスターが出してきたのは、スープだった。赤色の。
「OUT。」
「えっ。」
「OUT。」
食欲が一気になくなった。私はフォークをサラダに突き刺し、そのまま手を椅子の背もたれに伸ばし、ふんぞり返った。
「これは木の実由来のスープだ。人間はおろか動物性の成分は含まれてない。」
青年からそう聞いた私は、即座にテーブルの上にあったスプーン(レンゲかもしれない)を手に取り、スープの中に突っ込んで口の中に頬張った。
「うまいぃ!!」
「なんじゃこいつ。」
「知らん。」
このスープも絶品だった。一体何の木の実のスープかは知らないが、その味はまさに絶品である。病院以上というのは言うまでもない。
「ごちそうさん!」
ガタン!
私はまた椅子に大きくもたれかかり、ふんぞり返る。
「なぁ、これでよかったのか?」
「知らん。元気なのは何よりだ。」
・・・生涯で一番おいしかった。もう死んでるけ
「っ・・・!」
私は今食べたものを戻しそうになった。ダメだ、死んだことを思い出しちゃダメだ。
「落ち着いたか。」
「・・・(コクリ)」
私はうなづいた。戻しそうになったのは気づかれていないようだ。青年が私に向かって言う。
「さっき話した通りだ。明日は午前中、外に出て身だしなみを整える。その日の午後、神殿に向かい神官様に謁見する。」
「・・・・・・」
「今夜はもう寝ろ。明日は忙しくなる。俺の部屋をそのまま使っていい。」
そういう事であるらしい。
あれ、お風呂とかシャワーとかはないの? という疑問はあるにはあったが・・・
~翌朝~
先ほどまで眠っていた部屋で、私は一晩眠った。今日の服装は、男物のシャツに男物のパンツ、その上に白衣・・・である。
「最悪。」
私は一人でそうつぶやいた。
「おう。昨夜はよーく眠れたか? 俺は酒場の準備とかいろいろあるから、今日はお前ら二人で仲良くやってくれ。」
「お父さん。くれぐれも気を付けて。」
ちょっと待って、信じられない。こんな格好で外に出るの? いや、恥ずかしさよりなにより・・・
「あの。」
「ん?」
「外・・・凍るんですが。」
あー、今にして思えば。こっちに来てから人前で初めてこういう事を口にしたかもしれない。それまで私は何を口にしていた? 心の中であんなことこんな事考えてるけど、口に出すのはとても難しい、それはいろいろと自覚している。だってここの連中まったくもって非常識で・・・
「・・・ヒート。」
パッ
■■■ ... ... ...
「これで寒さは気にならなくなるはずだ。」
「・・・?」
夜空色の髪の青年に魔法をかけてもらった。いや、それよりも一瞬、魔法をかけてもらう時にあのバーコードが見えた気が・・・
あ、もしかして。
「どうした?」
私は急遽、メガネをかけた。だが、もう遅い。もしまたあのバーコードが浮かび上がることがあれば。
「それはメガネか。なんだ、こちらの事でも意識してたのか。別にそんな物、いつでもつけてかまわない。」
・・・私は、神経の病気を患っている。そのせいで目もとい眼球に影響が出ている。故に私は特注の乱視用の眼鏡、私のために作られた特注の眼鏡が、私にとっての命綱であるのだ。
だが、こちらでの私はどういう訳か、これがなくても普通にものを見ることが出来る。視力は2.0(個人の感想)といったところか。さらに、極めつけはお気に入りであったはずのこの眼鏡、これの度がなくなっていると来た。つまりはただのガラス盤である。
当然つけていても意味がないはずなのだが。これからはこのメガネをつけていってみることにした。
「準備はできたか。」
「(コクリ)」
私と、この夜空色の髪の青年はこの家を出た。家を出て初めて気づいたが、この家はごく普通の一軒家だった。
外は辺り一面雪である。気温は私がすぐに凍ってしまうほど恐ろしく低いが、かけてくれた魔法のおかげで確かに寒くはない。
青年が昨日言っていたことを思い出す。
―――"眠り町"。この町は目を見張るほど高い氷山に囲まれた、極寒の地。昼間以外は常に突風と大雪に見舞われ、これにのまれた人間はタイムスリップを経験するだろう。長い時を経て、この地に光が差し込んだ時にでも。
故に、ここには人間が入ってこないどころか、地図にすら載せられていない。ここに住んでいる人型の者たちは、こんな極寒の地でも平然と生きられる機能を持った者たちである。
吸血鬼。古来より人の生き血をすすり、悪魔の力に置き換えることで人外の力を発揮する種族。その魔力と驚異的な再生能力は、人間が見たら呆気に取られて武器を置いて逃げてしまうほどのおぞましさである。だが、この町に住む吸血鬼は決して人を襲うことはない。
この極地にこのような街が存在する理由。それは、とある神を祀る神殿がそこにあるからである。この町だけでなく、この世界にある全ての大地、空気、水、命、運命は全てその神からの恩恵、祝福であると。その神の一つ、唯一無二にしてこの地ただ一つ神殿のある土地。またその神の加護にて、この極地で活動することが出来る唯一の人間。それがこの地の神官である。
神官はその秘めたる使命を果たすため、この町の住人と「人間に対する不嗜不殺」の約定を結んだ。決して人を弄んだり、傷つけたり、捕食してはならない。殺すのも言語道断である。もしこの地に来た人間が非情な行いをするのならば、神官自らが裁きを下すと。
故に、この地の吸血鬼は人を殺さない。別に彼らは、わざわざ人を食わなくても生きていける。約定を守る事に嫌悪はない。ましてや人間に後れを取ることなどありえない。それゆえここの人たちは、日々魔獣を狩る日々を送り、また生の実感を互いに共感する日々を送っていた。故にこの地に紛争はなく、少女がここに最初に訪れたこと自体が最も幸運でもあったかもしれないと。
~最果ての眠り町 "ガウリル"~
魔王物語 ~スキルがわかる異世界冒険記~ babel @babel16
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