第18話

ノヴァに貫かれ宙に浮いている千草の手から、剣がガシャンと地面に落ちた。

刀夜は目の前で起こった一部始終が信じられず、現実で起きていることなのか疑った。訳も分からず地に落ちた千草の剣、水龍を見つめ、手に取る。まだ剣には千草の手の温もりが残っていた。


「殺してしまったよ、君のせいで。僕の大好きな大好きな妹を!」


狂気的な猛獣のような顔をした大樹はノヴァを下げた。それと同時に千草の身体が地面に落ちた。

どさっ

平原の草を千草の鮮血が染めていく。


「なぁ千草。千草?目を開けて立てよ。ここは危ない。早く逃げよう」


刀夜は、千草の頬に右手を当てて震える声で話しかけた。


「おい魔導士!治癒魔法だ!頼む!」

刀夜に言われはっと思い出したかのように千草に駆け寄る。しかし、その場にいる魔導士全員で治癒魔法をかけても血は止まらない。古賀兄妹の父に鍛錬されたノヴァは、千草のあらゆるものを切り裂いていた。


「副団長...これは...」


「あぁぁぁああああぁぁぁ!!!!!!」


刀夜は怒り狂い、千草の愛剣、水龍を大樹に振るった。その刃は大樹の左腕を斬り落とした。


「なっ!!」

大樹が発狂した。近衛兵団も魔術師たちに斬りかかり大樹を抹殺しようとした。しかし、刀夜も団員も魔術師の拘束術によってすぐに動きを封じられてしまった。


「やるじゃないか、だがなぜそれさっきやらなかった?お前が妹を殺したんだ」

大樹の左腕は魔術師によって止血されていた。敵の魔術師は魔力が相当高いようだ。だが敵である千草の治療などするはずもなく...。

刀夜は怒りと悔しさが爆発した。そして気を失った。



頭が痛い。俺は何を...


......!千草!千草は!?


目を覚ますとそこは牢屋のようだった。刀夜は、瓦のように硬いベッドの上に横たわっていた。じめじめしていてとても居心地が悪い。身体を起こそうとするが動かない。手足が拘束されているのだ。


「おはよう、草刈君」


「千草はどこだ!」


「ほら」


大樹の視線の先には燭台が四つ、正方形の角にそれぞれ置かれていて、その下に白く光る魔法陣が広がっていた。灯火に照らされ、人が横たわっているのが見える。それが千草だった。

大樹が千草に近づいていく。すると、いきなり千草に覆いかぶさり、千草の上から下まで舐めまわし始める。最愛の人の裸体だった。

牢屋と魔法陣がある広間だけの空間。まるでこの時のためだけに作られたようだった。その部屋中に、大樹が千草を舐める不快音が響く。


「千草から離れろ!」


大樹は刀夜の言うことに耳を傾けない。しまいには、動かない千草の身体を犯し始めた。


「おい!聞こえているんだろ!そこから離れろ!」


「あぁ、最高の妹だったよ」


「何が最高の妹だ...」


「では始めようか」


刀夜の言葉に一切耳を傾けない大樹が指を鳴らすと、決闘の時のように黒ずくめの魔術師五人が現れた。

大樹を含め六人は、魔法陣を囲むように立った。


「......」


大樹は何かを唱え始めた。すると魔法陣が回り出す。


「どうかこの者に新たなる救済を」


魔法陣の光が強くなり、千草を包み込む。刀夜はそれを黙って見ているしかなかった。

その刹那、白い稲妻が千草に落ち、直撃した。煙と粉塵があがり、刀夜の視界を奪った。

どうなったんだ。

早く見たいという気持ちと見たくないという気持ちが刀夜の心の中で渦巻く。

しかし見ないという選択肢はない。

ようやく視界が晴れ、魔法陣が見える。

が、そこに千草はいなかった。


「何をした!?」

刀夜が大樹に向かって叫ぶ。


「まあ君もすぐに分かるさ」


「アンロック、エアリアルフローティング。」

大樹が魔法の詠唱をすると、刀夜の自由を奪っていた拘束具が取れた。身体が浮き、そのまま牢屋を出て千草と同じように魔法陣の中心に降ろされた。身動きはとれないままだ。

本当に何なんだこいつらは。どんな殺し方なんだ。

そんな強気なことを思っていても刀夜の身体は死に対する恐怖でかたかたと小刻みに震える。


「さて、死んでもらおう!」


「最後に一つだけいいか?何のためにこんなことをする?」

刀夜はダメ元で大樹に訊く。

しかし大樹はそれに答えた。


「簡単に言えば、我々の趣味だ。お前には色々と忘れてもらなけらばならない。大切な人との思い出も。築き上げた地位も名声も。何もかも」


そのあとに大樹は付け足した。


「あと、校長に写真を渡したのは僕だ。僕の妹を穢す君が目障りだったからね」


まさか、最初から最後まで大樹が俺の手を引いていたのか?俺は大樹の敷いたレールを律儀に走る列車だったのか?

今となっては意味のないもの、怒りという感情が刀夜に湧いていた。


「最強剣士?笑わせるな。今こうしてお前は僕の前に横たわっている。最強は僕だ!僕こそが最強にふさわしい!!!」


大樹が黒いナイフを腰の鞘から一気に引き抜いた。


「さあ、おしゃべりもここまでだ」


「せいぜい向こうで上手くやるんだ、な!」


ブシャッ


胸の痛みとともにスーッと意識が飛んでいく。気持ちがいい。この快感が永遠に続けばいいのに......。


こうして刀夜は死んだ。

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最強剣士の異世界転生 天笠愛雅 @Aria_lllr

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