信仰心のない聖女には神様が見える

タマゴあたま

信仰心のない聖女には神様が見える

「天にまします我らが神よ。迷える私たちをお導きください」


 私は神に祈りをささげる。


「今日の祈りの時間はおしまいです。それでは皆さんごきげんよう」


 これで祈りの時間はおしまい。


 聖女。宗教的な事柄に身をささげた女性のこと。

 お祈りはしているわけだから、私も聖女ってことになるのかな。


 私は帰宅して自分の部屋に入り、しっかりと鍵をかける。


「あー! もう! やってらんないっての! 何が神よ! 本当に居るんだったら姿を見せなさいよ!」


 私は枕に向かって叫ぶ。私は別に聖女になりたくて教会へ行ったわけじゃない。いたずらをしすぎて両親に「反省しなさい!」と怒鳴られた。反省したと認められるまで、毎日教会で祈りをささげることが義務づけられた。


「呼んだ?」


 耳元で声がした。


「うおあ! びっくりした! 誰!?」


 びっくりしすぎて変な声が出た。

 振り返るとそこには少女がいた。十歳くらいだろうか。美少女だ。そんなことより、いつの間に部屋の中へ? 鍵はかけておいたはずなのに。


「よかった。見えてるし聞こえてるみたいだね。初めまして。神様です」


 少女は優雅にお辞儀をする。


「は? 神様?」

「今はこんな格好だけどね。れっきとした神様だよ」


 この少女、もしかしたらかわいそうな子かもしれない。警察よりも病院に連絡すべきだろうか。


「その顔は信じてないね。これなら信じる?」


 少女の体がふわっと浮き上がる。少女は空中でくるっとターンする。

 どうやら人間ではないらしい。


「わかったわよ。とりあえず人間じゃないことは信じる」

「神様であることを信じてほしかったなー」

「それで? 神様がいったい何の用なの?」

「うん。下界に興味があるんだ。いろいろ案内してよ」

「それって私じゃなくてもいいんじゃない?」

「それがねー。厄介なルールがあってさ」

「ルール?」

「そう。下界にいる時は依り代よりしろとなる人間といること。その人間は『祈りをささげていて』かつ『信仰心がない』ものであること」

「信仰心がない? 信仰心があるじゃなくて?」


 違和感のある条件に私は首をひねる。


「それが厄介でね。信心深い人には何故か認識されないみたいなんだ。偶像崇拝禁止ってやつかな。皮肉なものだよね」

「そうなんだ。その条件に当てはまるのが私ってこと?」

「そういうこと。探すの苦労したんだからね。ということでこれからよろしく」


 そう言って神様はにかっと笑った。

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