第4話 悪魔の容疑者
彼の言葉を信じた訳ではないが翌朝は会社に行った。こっぴどく怒られたが、今までの真面目さが幸いしたのか、上司は「お前も色々あるのは聞いているが、休む時にはしっかりと連絡をしろよ」とだけ言われた。同僚の何人かには、彼女のことは言ってあったので、誰かが気遣いを回してくれたのかもしれない。
休んでいてたまっていた仕事もあったが、同僚などが片付けてくれていたものもあり、いつもより、二時間ほどの残業で済んだ。
*
ピ~ンポ~ン
慣れ親しんだ実家のインターホンを鳴らす。仕事が終わって、実家に着くと辺りはすっかり暗くなっていた。
街頭はあるものの、人通りは少ないところだった。実家は一軒家でわりと広かった。友人たちには、「片親なのに金持ちなのかよ」と言われたことが、片手ではすまないくらいにはあった。その程度には大きな家だった。
無論、金持ちなどということはないが、母の親がそこそこの地主で、お金も、贅沢をしすぎなければ暮らしていけるくらいにはあった。
大学の進学時も「私らが出すから私立でもいい」と、亡き祖父母からは言われていた。
しかし、そのお金は母が病気をしたときや、祖父母・母の老後の生活に充ててもらいたかったので、僕は国公立大学に何とか進学した。
「あら、康明じゃない。どうしたの、いきなりきて。」
母が骨ばった細い腕で、もう何年も磨かれていない黒色の重厚な門を、ほんの少し開けて僕に問いかけてきた。
「ごめん、いきなり。母さんの手料理が食べたくなっちゃって。」
唐突にきてしまったので、母さんは口に手を当てて驚いた顔をしていた。もちろん、手料理を食べたいのではなくて、母さんの昔話を聞きに来たのだが、いきなり、悪魔のことを言っても母さんを無暗に心配させるだけだ。そう思って嘘をついた。
「もう、事前に言いなさいよね。大した料理は作れないわよ。」
口調は厳しいものだったが、--目元には隈を浮かべつつも--その目尻はにこやかな笑みを浮かべていた。
だからこそ、心の天秤に母さんをかけてしまっていることに罪悪感を覚えた。
*
母さんは、大したものは作れないと言っていたが、そう言いつつも僕が一番好きな肉じゃがを作ってくれた。
そのことに涙が出た。久しぶりに美味しいと感じたからか、罪悪感のためか理由はわからないけれど滂沱した。
「もう、全く、二十歳もすぎたいい男が自分の母の手料理を食べたくらいで何を泣いているのよ。」
やっぱり、嬉しそうに母は僕を叱る。きっと、心配をかけていたのだろう。
「いいじゃん、美味しいんだからさ。」
僕も自然な笑みが出来たと思う。
「そういえばさ、なんか、母さんの同級生にあったんだけど、母さん、結構、しつこく迫られたことがあるんだってね。今はこんなおばあさんになっちゃったけど、若い頃はモテていたんだね。」
僕は軽口をたたきながら、核心に迫る。もちろん、しつこく迫られたことがあるかは知らないし、仮にそんな経験があったとしても息子の僕に話すかは疑問だった。
「もう、いつからこんな生意気な子に育ったんだか。それに、誰が息子にそんな話をいったんだか。お喋り好きの安江かしらね。困っちゃうなぁ。」
困り顔で正直に母さんは話してくれた。どうやらいたらしい。悪魔はやはり母さんの同級生なのか。
僕は、更に核心に迫っていく。
デビル・ゴースト keimil @keimil
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