E.
「それね、プロテインだよ」
「ぷろていん? つまり、タンパク質?」
「そ。いい、簡単な栄養学とかも知っておいた方がいいけど、大体、運動する前には糖分などを摂取する。陸上選手が競技前にバナナを食べるのは知ってるよね? あと、運動後には、タンパク質をとるの。これ、
「はい」
「ほか、カーボローディングとか、関連することは幾つかあるけど、ここでは省略します。
「お…
若菜はニッ、と笑んで、
「そろそろ、
「そうだね。もう、部分的にガチガチだよ」
大きくうなずいて、
「それが正常な…、健康な肉体のありようだよ。いいから、休みな。あたしはこれから自分のワークアウトがあるし」
「どうも」
「はい。お疲れさまでした」
潤平は痛む身体を抱えて自室に引き取った。自分の家の中で、これまで全く知らなかった場所があり、そこで信じられないやり方で肉体を
――ああ、参ったよなあ。
潤平はごろりと天井を向いてベッドの上に
「潤平、どうだね、ワークアウトは?」
夕食時、大輔が
「そうだね」潤平は少し
すると、大輔はしゃんと背筋を伸ばし、
「そりゃ、何だってやり始めはそうさ。あの、トレーニングのいい点というのを、教えてやろうか?」
「うん」
「お前は、これまで何かやろうと必死で努力したこと、それでも結果的に注いだだけの努力に沿わぬことになってしまったことはあるか?」
「うん、あるよ」
「何だ?」
「小学校のとき、ピアノを習ったけど、始めて二週間でダメになったとき……、あと、中学受験のとき、算数はもの
「うむ」ビールをもう一と口。「筋力トレーニングのいいところはな、潤平、やればやった分だけ必ず返ってくる、ってとこだ」
「……」
「半年間も続けてみなさい。きっと、見事な逆三角形の身体になっているだろうよ」
「――そうか」
「そうさあ」大輔は元気づけるように、「最低でも三ヶ月は続けることだ。何もいわずに。いいな?」
「はい」
「よし」
その夜潤平は、久しぶりの肉体疲労のために、夢もみず
何とか起き出して
そうそう、疲労回復にはタンパク質だ、と云っていたっけ。それじゃあ今朝は卵をお代わりして食べようかな、などと考えながら食卓に着くと、隣の席に黒田がやって来た。
「お早うございます」
「あ、ども」
「どうでした、ワークアウトは?」
潤平は苦笑いした。
「まあね、キツいことはキツいです」
「あのね、坊ちゃん、ボディビルダーだって、高卒資格くらい持ってなきゃ」
「ええ?」
「ワタシ、知ってんですけどね」と声を潜めて、「坊ちゃん、高校は中退なさってんでしょ」
「……あ、ああ、まあ」
「そりゃあよくない。悪いことはいわない、高校は出ておきなさいよ。……ワタシね、いい学校知ってんですけど、教えてあげましょか」
自分で調べたからいい、と断ればよかった、と
「うん」
とうなずいてしまった。黒田はうなずき返して、
「横浜にあるんですがね、白魔陣学園ってんですよ」
「しろまじん?」潤平は眉を
ウェブでも県内の高校をかなり調べている筈だが、そんな名前の学校は聞いたこともないのだ。黒田は、さもありなんと云いたげにまたうなずくと、
「ここ三、四年ほどで大きくなった学校ですんで」
と云った。
「――で、おたくがそのガッコを、紹介してくれるの?」
「ええ、資料は持ってますから、差し上げますよ」
「ふうん。どういうとこ、そのガッコ?」
「どういう、って、普通の私学でさあ。ワタシの知る限りはね。大学進学率も高いし、その気になれば――、あくまでもその気になれば、ですがね、クラブ活動もありますし」
「スクーリングは、どのくらい?」
「週に二回、だったかな? 詳しいことは調べないとわからないですが」
「で、おたくはどうしてそのガッコをぼくに紹介する気になったの?」
すると、黒田は妙な含み笑いをしてみせた。
「それというのはね、あなた、こないだの〝どおん〟という音ですよ。あれを聞いたひとって、この建物の中にはワタシとあなたと二人きりだと思うんですがね。それですよ」
「……あの音は一体なんの音なのか、あんた説明できんの?」
「いえいえ、ワタシにゃそんなたいそうなことはできません。だけど、ああいう音、っていうのはね、こう…」と視線を落として声を
「うん」
潤平は取り敢えず同意した。黒田は、はっとしたような顔をして、
「あなた、これまでにこういう問題をご経験したことはおありで……」
「ああ、ぼかぁありますよ。何度かね」と幾つか例を述べて、「こんな具合で」
「うんうん、やはりねえ」黒田は納得したようだ。「さもありなん、と思いましたよ」
「――で?」
「ええ、それでね、そういう問題を経験して、それで、相談できるお相手というものはいるんですか?」
「ないよ」
と答えた。黒田は大きくうんうん、とうなずいて、
「やはりねえ、ワタシの見込んだとおりだ」
「――で?」
潤平は先を促す。黒田は、
「はい、ですから、その白魔陣学園という学校には、その方面の……、〝そっち〟系専門のひとも来ていたり、学園に
「へええ」
潤平は気のない返辞をしたが、内心では何となく面白く思われていた。潤平も、〝深夜の突然の見知らぬ来訪者〟には実のところ
「ホントホント、そういう問題に助言してくれるひとが多くいますから、お
「じゃ、もし行かないといったら?」
試しに潤平は云ってみた。
「へ?」ときつねに
それで潤平の気持ちは十中八九、決まったも同然だった。
「じゃ、そのガッコの資料くれる?」
潤平が頼むと黒田は
「わかりました」と云うた。「ワタシ、部屋にありますから、ちょっと取って来ますね」
黒田は五分ほどで戻って来た。資料はA4版サイズの
「白魔陣学園」
ともったいぶった書体で仰々しく書かれている。潤平はそれを手にすると、
「ちょっと、借りるわ」
と云い、黒田をその場において立ち上がった。黒田は、
「坊ちゃん、今朝も掃除はあるんですけどね」
と声を掛けてきたが、
「……こんなひどい筋肉痛で、ワークアウトも何もできたもんじゃないし――」
とぶつぶつ
自室で机に向かい、この白魔陣学園についてのパンフレットを読み、ウェブ・サイトを閲覧してみると、最初黒田の説明を聞いて感じたより以上にこの学園は〝まとも〟な運営方針で営まれているようだった――生徒数は約九〇〇名、教員数は四〇名、学園は横浜市北部に位置し、潤平の住まいからも比較的交通の
「ぼく、決めたから」
と潤平は昼食の席で両親に云った。
「そうか、お前も
大輔は嬉しそうだ。
「まあ、恥ずかしくないおとなになってちょうだい」
千鶴子も口ではそう厳しいことを云うが、機嫌は悪くないようだ。
「――で、潤平、いつ手続をするんだね?」
「
「ああ、それもそうだな。――それで、あれの方はどうなった?」
「あれ?」
「ああ。お前が欲しいと云っていた――、ウォークマンは」
「ああ、買ってくれるの?」
「そうさ。約束したろ」
「ありがとぉ! うん、あれはいつでもアマゾンで出てるからさ」
「そうか。早いとこ申し込んでくれな」
「ありがとう!」
「――筋肉痛の方はどうだ?」
「うん、がっちがち。あと一週間くらいはとれなさそう」
「そうだろうな。筋肉痛のとれない間は、トレーニングは休めよ」
「はあい」
潤平は明るい声音で
潤平はその朝、食事を終えると部屋に引き取り、
「駅まで送ろうか?」
と声を掛けてくれたが、
「いい天気だし、歩くよ」
と答え、ブルートゥース接続のヘッドフォンをとって靴を履いた。筋肉痛はまだ残っていたので、動かすと身体の各部でうずきがあった。が、歩いたり軽く運動をするにはよい気候だった。潤平は出発した。
歩きながら、そして電車の中では、アルティ・エ・メスティエリによる『ファースト・ライヴ・イン・ジャパン』を聴いた。公彦叔父からの情報で、この盤に大曲〝アルティコラツィオーニ〟を加えれば当日の完璧なライヴ・セットになることを知っている潤平は、この場に参加できなかったことをとても
――潤平は〝降車〟ボタンを押して次の停留所〝化学研究所前〟バス停で車を降り、ひとり坂道を上って学園を目指した。少し息が切れてきて、潤平は立ち止まり、ほかに歩く者のないことをみてとり、さては道を間違えたか、と危ぶんだ。が、直ぐに上から三々五々下ってくる自分と同じ年恰好の若者たちとすれ違い、やはりこの道でよかったのか、と思い直して再び歩を運んだ。潤平の周囲は道に沿って桜並木があり、その向こうはのどかな田園風景が拡がっていた。潤平の歩く道は緩やかな勾配になっており、先に何があるのかなかなか見通せなかったから、道を下ってきて自分とすれ違う学生たちがいなかったら、道に迷ったとてっきり思いこんだにちがいない。上っていくと、やがて建物の片隅が視界に入った。四角いコンクリート造りの建築物……、恐らく学校だ。それは真っ青な青い空によく映える姿だった。そして潤平の耳にもその音が入った――、学校時代に
〝生徒用昇降口〟とプレートがついている入り口は避け、学園からのメールにあった通りに〝来客用出入口〟とある口に
「あのう……」と話し掛けた。「高校の学校説明会は、こちらでしょうか?」
「いかにも」と女性(ピンクのスーツを着ていたので、潤平は〝桜の
潤平は
「してあります。――ええと、笠原潤平、と申します」
〝桜の女史〟は、指先をなめ、名簿を繰って、
「…――ええ、カサハラ、カサハラと」とぶつぶつ云いながら名前を探していたが、何度目かに指先をなめた末に、「あったあった」とつぶやいた。「ええと、笠原潤平さん、ですね?」
「はい」
〝桜の女史〟はまたうなずいて、
「では、これをお持ちになって、
と種々の書類がはいった大きな茶封筒を手渡したので、潤平は
「ここ、空いてるかしら?」
不意に声を掛けられた潤平はどぎまぎして、すぐには声が出ず、のどの奥で少し〝発声練習〟をしてから、
「ど、どぞ」
と
「わたしは、吉見まどかというの。よろしく」
「あ、ども」
「あなた、笠原潤平さんね?」
「え?」
どうしてそれを、と訊こうとしたとき、吉見は笑って、
「ビックリしなくてもいいのよ。あなたのお名前、その封筒のうえに書いてあるから」
と云った。いわれてみると、潤平はそれまで気づかなかったのだが、吉見のいう通り、資料の入った封筒の上に「笠原潤平さま」と書かれている。
「なあんだ」
吉見はまた笑って、
「あたしは別に
と云う。その時、時間になったとみえ、学校側の担当者が教室に
話が済み、五分休憩になると、吉見は、
「気になるみたいね」
とほほえんだ。
「ええ、まあ」潤平は赤くなり、「すこし……」
「どうして気になるか、わからないでもないわ。あたしが隣に座ったからでしょう」
「はい」
「それはね、あたしがここへ来るときに、もう分かっていたのよ」
「は?」
「今日はあなたがここに来る、ってことが」
「……はあ」
潤平は眼が点になるのを覚えた。
「あたしはね、とっても勘がいいの。その日起こることは、たいていこれが教えてくれる」
そう云って、バッグから一と組のカードを出してみせた。
「……」
「何か、わかる?」
「いえ」
「これね、タロット・カード。これで占えば、その日の
「ふうん」
潤平が
と、そこで別の教員が
「また後でね」
と吉見は云った。潤平はうなずいた。
――その日、結局潤平は、この白魔陣学園に申し込むことを、両親に相談する前に大体決めてしまった。説明会でも(後半は潤平も話に集中した)、ここの高校は大学進学実績が優れていて、早慶あたりにも進む学生が多いことにアクセントがおかれていて、そうしたことが結局は潤平の重い腰を上げさせるうえで
「あなたはいま迷っている。迷路に迷い込んでいて、同じところをぐるぐる歩き回っているところなのよ」
という云い方をした。そして、向きなおると潤平に、
「あなたを救えるのは、……ああ、でも、なかなかあれは手に入らないからなあ」
と尻切れトンボで語尾を残し、
「あなたのおうちの近くに、お寺とかお墓はある?」
と問うた。それに応じて潤平が、
「――…ええ、白光寺というお寺がありますけど」
と答えると、
「やっぱりね」合点してうなずいた。「あなたね、あなたは体質的に巫女の気が強いわ」と言うのだ。「前世であなたは巫女をしている
と潤平にはまるで分からぬことをしゃべり立てた。
――と、あらっ、というと、
「いま、何時かしら? あたし、時計って持ち歩かないので…」
潤平の腕時計をみると、いけないもう時間だ、とバタバタと帰り支度をして、懐からカード入れを出すと名刺を一枚潤平に渡した。そこには、
「よろずカウンセラー ユーグレナ」
とあって、裏には吉見まどかの名とメール・アドレスに電話番号が記されてあった。
「じゃあ、また。何かあったら、連絡くださいね。力になるから…」
と云い残すと〝ユーグレナ先生〟こと吉見まどかはそそくさと行ってしまったので、潤平はうら若いとはいえど高校就学年齢はとうに過ぎていると
その日潤平は複雑な心境で
「坊ちゃん、お帰りなさい」
黒田が近寄ってきた。
「お疲れでしょう。いかがでした、説明会は?」
「うん。――疲れたね」
「何か顔色がお悪いですけど」
「ああ。変なのがいて」
と潤平は〝ユーグレナ先生〟のことを
「ううん、やっぱりそういうこと、ありますかねえ、あそこは」
と云った。
「えっ!?」
と問うと、
「いえね、ワタシの聞いた限り、あの学校は、何でも〝無意識をかき回す〟学校だとかで有名なんですよね。無意識をかき回して、人生をトランプの途中でシャッフルをやり直すような感じに、つまり〝鬼札〟を出すワケです。あの学校と関わりを持つと、そういう経験をすることになるらしいんですな」
と知った風なことをいう。
「じゃ、あの、ぼくの会ったひとは……」
「そう。実際にあの場にいたのかも定かではない。いや、そのひと自体は存在していますよ、だけれど、あの場に本当に本人がいたのかどうかは、分からない。まそんなとこです」
夕食の席で、潤平は、両親に白魔陣学園へ入学手続をとりたい旨を伝え、その場で
そしてそれから潤平は、まず学力テストを受験した後、二週間ほどの事務手続き期間を経て入学が認められ、高校二年次に編入された。スクーリング(通学授業)は週に二回ほどあり、それ以外はウェブを使って通信教育を受ける。それともちろん潤平には、ワークアウトがあった。潤平のたっての希望で、スタジオには有線放送が引かれ、スレイヤーなどが掛かったから、潤平たちは〝スクラム〟とか、〝パーヴァージョンズ・オブ・ペイン〟、〝ポイント〟だの、〝ヴァイオレント・パシフィケイション〟だの〝ジェミニ〟、それに〝レイニング・ブラッド〟といった曲を聴きながらトレーニングを積むことになった。
学校は……、どことなく
「筋肉はアクチンとミオシンという二種類の
とか、
「糖分は、エネルギーとして必要だけど、摂りすぎると脂肪の元になるから気をつけるんだよ」
とか、
「筋肉には遅筋と速筋と二種類あるの」
とか、
「筋肥大を目的とするボディビルの場合、トレーニング法は、ほかの筋持久力とか瞬発力を必要とするスポーツとは自ずから異なってくるワケ」
とか、或いは、
「疲労は、以前は〝疲労物質〟つまり乳酸ね、乳酸が筋肉内に蓄積して筋肉痛が起こるんだっていわれてたけど、最近は筋肉内のpH、酸と塩基だね、そのバランスが崩れるので起こる、という説が有力みたいだね」
などと参考になる豆知識をいろいろ教えてくれた。
そういうほぼ安定した時期に、それは
その夜、潤平は英語の仮定法の課題を解くのに忙しく、珍しく音楽も聴かずにほぼ
どおん
と地鳴りが轟き、潤平はすぐに眼を醒ました。
――な、なんだァ?
むっくりとベッドの上で上体を起こし、潤平は息をこらして耳をそばだてた。が、辺りは
「坊ちゃあん」
などと呼びかけて来るのではないか、と思った。けれど、だれもいなかった。時計をみると午前四時二〇分である。そろそろだれか起きていてもよさそうなものではないか。潤平はじりじり・いらいらしたが、仕方のないものは仕方がない。
さて、どうしたものか。潤平は腕組みをして考えたが、ここは身の安全も考えて、部屋にいるのがいちばんではないか、そう思い、どうやらいまの物音の源であったとおぼしき、スタジオの様子を見に行くのは取りやめにした。それはいいのだが、潤平は眠れなくなってしまった。これでは
潤平は何か(NTMVSとは違い)気を落ち着けてくれるような音楽でも聴こうと思い、ラックをあさり、クエラ・ヴェッキア・ロカンダの『イル・テンポ・デッラ・ジオイア』を探し出した。邦題は
聴き終えてスタイラスを除けると、潤平はふっと脱力して、
――と、建物の中でごそごそと物音がし出した。だれか起き出したのかな、と潤平は考えて、自分も部屋から出ようか、と考えた。どうしよう、出るべきか出ぬべきか……。いくぶん
腹が減っているのだ。
潤平は何か喰おうか、と思い、時計をみた。午前五時五〇分。そうか、間もなく朝食なのだな。潤平はベッドの上に座り込んだ。両手で頭を抱えた。
数億年の時間が流れたかと思われた後、やがてようやくのことで朝食時間になった。潤平は真っ先に食堂へ降りて、パンを温め、スープと卵を添えて食べ始めた。と、隣に黒田が座った。
「お早うございます、坊ちゃん」
「ああ、うん、ども」
声をひそめて、
「坊ちゃん、
潤平は身体を
「――まあね、聞いたよ」
「ありゃあ、きっとあれですよ。まあ、噂をすれば何とか、といいますから言いませんけど」
「うん。らしいね」
「どうします?」
潤平はスクランブルド・エッグの
「きみなら、どうするね?」
「ワタシなら、ですか? できるだけ近くにいて、頼りになりそうなひとを探しますね」
「そんなひと、おらんよ。ぼくの周りには」
「いるじゃないですか」
潤平は眉を上げた。
「うん? こないだのひと?」
「そう。あの…アメーバじゃないし」
「ユーグレナ」
「そうそう。あの先生が一番頼りになりそうじゃないですか」
「わからんよ」
「うん。どうしてです?」
「まず、あんなガッコに来るところからして怪しい。年齢はもっと年かさらしいのに、高校の学校説明会なんかに来るのはひどく怪しい」
「何か事情があったんじゃないでしょうか」
「――きみね」一ついってやろう、という態度で身構えて、「ひょっとしてきみは、ぼくにあの先生とやらに連絡させようとしているのかい?」
黒田は呆れたように、
「さっきからそう言ってるじゃないですか」
「うん、どうも分からないんだよなあ。ぼくはもうあんなガッコに行くのは
「そう言わないで下さいよ。ワタシだって、ワタシにできる精一杯としてああやってお
その声は
「――まあ、あの先生しかいないといえばいないんだがね」
「じゃあ、電話しますか?」
潤平はがっくりとうなだれてため息をついた。
「そうだね、そうするのが一番らしいね」
「早い方がいいですよ」
いい残すと、黒田は席を立った。代わってひとの気配がするので、顔を上げると若菜だった。
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