67.空気を読まんでしゃべりました。

 小早川こばやかわさんが毛利もうり家の三男だったって、歴史的証拠が見つかったのを紹介するロケは、岡山県の大雲寺だいうんじでやるらしいです。

 今日は、2019年4月30。平成最後の日です。


 大雲寺だいうんじは、昔、備前びぜんって言われたところにあります。


 わたしは、今は、歴史好きのおバカアイドルって、ややこしいポジションにおるんで、ここら辺のことは、バッチリおさえてます。


大雲寺だいうんじって、安楽庵策伝あんらくあん さくでんさんが、建てた寺ですよね」


安楽庵あんらくあん? 誰それ?? ちょっと待って! このロケ、めっちゃハードルたかない???」


 カメラが回ってる中で、わたしのウンチクを、声が渋くて、大喜利が上手くて、運動神経悪い芸人さんが、めっちゃええ感じにほめてくれした。


「バナナが食べたくて海賊船に乗って、だまされて突き落とされて死んだ『バカかわさんの話』書いた人ですよね」


「いやーすごいなー。私の出番がないなぁ・・・」


 エライ歴史の先生も、驚いでくれました。台本通り、驚いてくれました。


「・・・これです。倉の隙間の隠し納屋なやに納められていました」


 大雲寺だいうんじの住職さんは、大本通り、なんや古そうな黒い箱を出してきました。


「おぉーーーーこれですかぁ!!!!」


 エライ歴史の先生は、めっちゃええリアクションしました。わたしと、運動神経悪い芸人さんは、エライ歴史の先生のテンションが高すぎて、ちょっと引くくらいでした。


「では・・・空けますよぉ!!!!!」


 エライ歴史の先生は、手袋をつけて、めっちゃ興奮して箱をそぉっと明けました。

こっからは、リアクション重視で、台本ありません。ロケハンしたスタッフさんも、まだ中身見てないらしいです。


「何これ? ・・・布!?」


 最初に、声が渋くて、運動神経悪い芸人さんが、反射神経よくリアクションしました。


「たくさんの絹の布に包まれている・・・? おぉ! 安楽庵あんらくあんさんは、とても厳重に隠していたのですねぇえええ!!!!!」


 エライ歴史の先生は、めっちゃ強いリアクションしました。ちょっとウザいくらいリアクションしました。


 わたしは出番ないんで、ニコニコしてました。でも心の中では、めっちゃドキドキしてました。三成みつなりさんからもらったハンカチや! ってめっちゃドキドキしてました。


 ・・・そっか・・・三成さんが「ふぁさぁ」言わして餞別せんべつにくれたハンカチ。ポケットにパンパンに入れてたのに・・・戦国時代に置き去りにされてたんや・・・。


 めちゃ強リアクションの歴史の先生は、慎重に三成みつなりさんのハンカチを取り除くと、中から紙切れが出てきました。


「ここに!!!! 歴史の闇にほふられたられた毛利もうり家三男の真実が!!!!!」


 めちゃ強リアクションの歴史の先生は、興奮しすぎて、ちょっとウザいくらい叫びました。めちゃ強めちょいウザ歴史先生は、手を震わせながら、そっと紙を開きました。


「キモ! 足三本あるし! ん? でも髪の毛めっちゃサラサラやな、めっちゃ「ふぁさぁ」言わしてる。入念にトリートメントしてる」


 大喜利が上手い芸人さんは、きっちり仕事しました。一見滑ってるように見えるのは、わたしが上手いことリアクションできんかったせいです。


 わたしは、仕事どころやありませんでした。わたし書いた絵を、キモい言われても、足三本って言われても、なんもリアクションできませんでした。アリ・・・アリエ・・・忘れたけど、わたし書いた、海の神さんの絵を見て、なんもリアクションできませんでした。


「これは、アマビエですね!! いやはや、戦国時代からすでに伝承があったとは!! この時点でもう歴史的発見ですよ!!!!!」


 めちゃウザ歴史先生は、めっちゃ興奮しながら言いました。そして、


「おぉ!!! このちぃちゃく書かれたしょに、毛利もうり家三男の真実があるのですね!!!!!」


と、めっちゃめっちゃスゴめっちゃ興奮して、食い入るようにちぃちゃい書を読み始めました。


「ふん・・・ふん・・・ほう・・・ほう。え! え!! えええ〜〜〜〜!!!

 ほんげええええええぇえええええええええええええええ!!!!」


「ちょ! 先生、興奮しすぎ! おさえて、おさえて・・・」


 興奮しまくるめちゃウザな歴史先生を、運動神経悪い芸人さんがなだめました。


 めちゃウザ先生は、息を整えると、キモいくらい一気に早口でまくしたてました。


「いいですか! 読みますよ。


  秀長殿ひでながどの 四十九日しじゅうくにち

  御伽話おとぎばなしあり

  元就もとなり三男 小早川こばやかわ景隆たかかげ 服毒ふくどくそうろう

  荼毘だび

 

  ややこし ややこあり 

  これかふき踊りの

  干支かんし七度ななどめぐりきたれり


  いわく 徳川とくがわ謀叛むほん

  いわく すべらない話


 すごい! 歴史的大発見だらけだ!!!!!」



「ちょ! 先生、興奮しすぎ! おさえて、おさえて・・・」


 運動神経悪い芸人さんになだめられても、めちゃウザキモ先生は、息を整えずに、キモいくらい一気に早口でまくしたてました。


「ポイントは三つです。


 まず1つ目!

 毛利元就もうりもとなりの三男は、暗殺されています! 小早川こばやかわ景隆たかかげとあるから、うん、なるほどぉ。

 次男の吉川広家きっかわひろいえと同じですね。毛利元就もうりもとなりは、息子を近隣の大名のもとに養子に入れて、近隣への発言力を高めたのですね!


 つづいて2つ目!

 歌舞伎かぶきの元祖は、出雲阿国いずもおくにと言われていましたが、どうやら違うようです!

 名前は・・・干支かんし七度ななどめぐり? むむ? 知らないなぁ・・・まあいっか・・・。


 そして3つ目!

 これがすんごい!!

 この、干支かんし七度ななどめぐりという人が、毛利家の三男を暗殺した人物の正体を暴いたみたいです!!!

 犯人は、徳川家康とくがわいえやすです!!

 つまり、1591年10月に勃発ぼっぱづした天下分け目の関ヶ原せきがはらの戦いの原因が、毛利もうり家三男の暗殺だったんですねぇ!!!!!!!


すんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごいすんごい!!!」


 めちゃウザキモ先生は、こわれたオモチャみたみたいに、何度も何度もうなづきながら、叫びました。そして、電池切れたみたいにゼェゼェ言いながら聞いてきました。


「はぁはぁはぁ・・・な、何か質問は?」


「芸人としては、やっぱり、この『すべらない話』が気になるんですけど」


 声が渋くて、大喜利が上手くて、運動神経悪い芸人さんが聞くと、めちゃウザキモ先生はあっけらかんと言いました。


「あぁ、御伽噺おとぎばなしを言い直したんでしょう。豊臣秀吉とよとみひでよしは、身分が低い出だから、身分が高い人への劣等感があったみたいなんですよね。

 今でこそ、御伽噺おとぎばなしと言えば、桃太郎とか、こぶとり爺さんみたいな、昔話・・・童話のことですけど、戦国時代では、大名に話を聞かせる座談会のことを、御伽噺おとぎばなしと呼んでいたんです」


「そぅなんやー」

「そぅなんやー」


 わたしと、声が渋い芸人さんはハモリました。声が渋くて、大喜利が上手くて、運動神経悪い芸人さんは、話を続けます。


「いやー怖いな。豊臣秀吉とよとみひでよしの前ですべらない話なんて、そりゃ緊張するでしょ!

 今の『すべらない話』でもめっちゃ怖いのに、豊臣秀吉とよとみひでよしの前で話すなんて・・・本当に怖い! 戦国時代のおとぎ話は、本当に怖い!」


「・・・そうですか?」


 わたしは、声が渋くて、大喜利が上手くて、運動神経悪い芸人さんの話を、思わず、ダメ出ししてしまいました。

 そして空気をよまんで、自分の思ったことを、ソロリとしゃべりました。


「わたしは、平気や思います。だって、戦国時代の人、みんなめっちゃ優しいし」


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 『「秀吉豊臣のすべらない話」すべると打ち首獄門やて。』


        これにて、おしまいや!















    ・・・きこえますか・・・きこえますか・・・

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