54.何だバカヤロウ!

六十ろくじゅう!!!」


 ドドン!!!!!


 ・

 ・

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 罰ゲームが終わると、三成みつなりさんは先っちょが枝分かれしてる長い棒を放り投げて、権兵衛ごんべえさんをグルグル巻きにした縄を引っ張り始めました。


「急いで、引き揚げるであろう!!」


 三成みつなりさんが、ふたりの同僚さんに向かって言いました。

 同僚さんは、三成みつなりさんと一緒に、大慌てでグルグル巻きにされた権兵衛ごんべえさんの縄を引っ張って、熱湯風呂から引き揚げました。


権兵衛ごんべえ殿!」


 三成みつなりさんは、茹で上げられてぐったりしている権兵衛ごんべえさんに、声をかけました。

 茹で上げられてぐったりしている権兵衛ごんべえさんは、手を高々と上げました。親指を立てて高々と上げました。


 権兵衛ごんべえさんのこと、特等席に座ってずっと見ていた、ちぃちゃいゴリラの関白かんぱくはんは、特等席から立つと権兵衛ごんべえさんを指差しました。


権兵衛ごんべえ! 罪、しょうなり!!」


 関白かんぱくはんは、「結果発表!」みたいな言い方で、権兵衛ごんべえさんのこと、許してくれました。


 大阪城の広場は、大きな歓声に包まれました。


 三成みつなりさんは、ぐったりしている権兵衛ごんべえさんを抱きかかえて、泣き叫びました。


権兵衛ごんべえ殿! よかったであろう、まっこと本当によかったであろう!! よかったであろう・・・」


 わたしは、権兵衛ごんべえさんを大阪城の大広間で一番最初に見た時は、普通よりの普通でした。鈴だらけの服を着とるときは、普通よりの普通でした。


 すべらない話で、だたすべってた時の権兵衛ごんべえさんは、普通よりのキライでした。


 おくにさんとステージで歌って踊ってる時に、関白かんぱくはんの特等席のさらに前のかぶりつき席で、わたしのふとももを食い入るように見ていた権兵衛ごんべえさんは、キライよりの普通でした。


 そんでもって、熱湯風呂から這い上がるフリして、わたしのスカートの中を鼻の下のばしてかぶりつくように見てた権兵衛ごんべえさんは、キライよりのキライでした。ガッツリ、キライよりのキライでした。


 でも・・・今、権兵衛ごんべえさんに抱きついて、大泣きしている三成みつなりさん見てもうたら、権兵衛ごんべえさんの事、スキよりのキライになってしまいました。


 リアルガチに助平すけべえ権兵衛ごんべえさんのこと、スキよりのキライになってました。

 わたしは、リアルガチに助平すけべえ権兵衛ごんべえさんが、関白かんぱくはんに許してもろうて、死なんで済んで、本当によかったって思いました。心の底から本当に良かったって思いました。


「すぐに、医者に見せるであろう!」


 三成みつなりさんが叫ぶと、三成みつなりさんの同僚のふたりは、三成みつなりさんとわたしが、罰ゲームに権兵衛ごんべえさんを突き飛ばすのに使っていた、先っちょが枝分かれしてる長い棒に、熱湯風呂を隠していた白い布を巻きつけて、めっちゃ頑丈なタンカを作りました。


 三成みつなりさんは、権兵衛ごんべえさんをおんぶすると、飛び込み台からキビキビ降りてタンカの上に乗っけました。同僚さんのふたりは、タンカをかついでステージから一目散にお医者さんのとこ走って行きました。


 三成みつなりさんも、権兵衛ごんべえさんと同僚さんのこと、一目散に追いかけて行きました。


 わたしは、三成みつなりさん達をボーっと見ながら、思いました。


 ・・・めっちゃ疲れた。


 わたしは、おくにさんに、めっちゃ「キャーー〜ーーー〜!」ってなって、それやのに、トップスターのおくにさんと一緒に踊ってる時は、ふとももしか見られないのにめっちゃ嫉妬して・・・でも、歴史的トップスターと一緒にステージ立てたんがめっちゃ誇らしくて、それから、権兵衛ごんべえさんのこと、普通よりのキライから、キライよりのキライを経由して・・・でも結局、スキよりのキライになって・・・とにかく、ドッと疲れていました。

 いろんな感情混ぜこぜにして、スキ、キライがアッチャこっちゃ行って、めっちゃ疲れました。


 めっちゃ疲れたわたしは、飛び込み台からフラフラ降りて、ステージからもフラフラ降りて、大阪城の広場をフラフラ歩きました。立派なマネージャーの策伝さくでんさん探して、めっちゃフラフラ歩いていました。すると・・・


  ゴチん!!


 めっちゃ怖いおっさんにぶつかりました。

 めっちゃ怖いおっさんはわたしに向かって言いました。


「何だバカヤロウ!」

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