47.賢いのに、なんでこんなにダメなんやろ?

 大きい鉄鍋の中の湯が、グラグラと煮たっているのを見て、わたしは、三成みつなりさんの事、おもいっきりダメ出ししました。


「なんで守らんのや!」


 わたしが叫ぶと、三成みつなりさんは、キョトンとしました。


「沸騰したお湯入ったら、権兵衛ごんべえさん死んでまう!」


 わたしが叫ぶと、三成みつなりさんは、ちょっと何言ってるかわからん、言う顔しました。


「死ぬかどうかは、御仏が決めるのであろう? 許すかどうかは神さんが決めるのであろう?」


 ・・・あかん。この人、ホンマもんのポンコツや。


 なんで話がかみ合わんのやろ?

 わたしは不思議でした。実は結構前から不思議でした。三成みつなりさん、めっちゃ賢いのに、なんでこんなにダメなんやろ? なんでこんなにカン悪いんやろ?? なんでこんなにポンコツなんやろ???


 わたしは、なんでか考えました。本当は結構前から気付いてました。三成みつなりさんは、めっちゃ賢いけど、なんでもできるけど、自分ではなんも決めん人なんや。

 三成みつなりさんは、関白かんぱくはんや小早川こばやかわさんや、神さんの言うことしかやってない。大事なことは、エライ人になんでも決めてもらう人なんや。


 わたしは質問変えることにしました。わたしは、ニコニコせずに本気で質問することにしました。「笑ってる場合やない」思うて、本気で質問することにしました。


三成みつなりさんは、権兵衛ごんべえさんが死んでもええんですか?」


 三成みつなりさんは、目を見開きました。そして、ギギギィて歯を食いしばりました。ギギギィて歯を食いしばって震え出しました。そして、絞り出すように腹のそこから声をひねり出しました。


「・・・死んで欲しくないに・・・決まっとるであろう」


 三成みつなりさんは、弱々しく、声をひねり出しました。

 三成みつなりさんの目からダバダバ涙がこぼれ落ちました。


権兵衛ごんべえ殿は・・・関白かんぱく殿の最古参の家臣。

 たしかに、頭足らぬところあるが、どうしようもなく頭足らぬところあるが、誰よりもの関白かんぱく殿に忠義を誓う、真の武士モノノフであろう?」


 三成みつなりさんは、歯をガタガタいわせて、ダラダラダ鼻水流しながら言いました。


 わたしは思いました。

 権兵衛ごんべえさんは、アホみたいです。どうしようもないアホみたいです。でも、どうしようもないくらい、関白かんぱくはんのこと好きらしいです。

 そして、そんな権兵衛ごんべえさんを、三成みつなりさんは、どうしようもないくらい好きらしいです。


「・・・だったら、権兵衛ごんべえさんに生きてもらわんと。熱湯風呂、ええ湯加減にしましょ?」


 わたしは、さっき返してもらったハンカチを、もう一回、三成みつなりさんに貸しました。


 三成みつなりさんは、ハンカチを受け取ると、ダバダバ流した涙をゴシゴシ吹きました。ついでに、ダラダラ流した鼻水を、ビトビトぬぐいとりました。とどめに、鼻を思いっきり「チーン」ってかみました。


 わたしのハンカチで、顔がスッキリした三成みつなりさんは、ちょっとカッコつけて言いました。


「かたじけない。ハンカチは、明日きれいに洗ってお返し致す」


 わたしはニコニコしながら言いました。


「大丈夫です。そのハンカチ、三成みつなりさんにあげます」

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