48.ラー油みたいな湯加減です。

「大丈夫です。そのハンカチ、三成みつなりさんにあげます」


 わたしは、三成みつなりさんのいろんなエキスの入ったハンカチに別れを告げました。気に入ってたハンカチやったけど、泣く泣く別れを告げました。


 三成みつなりさんは、


「さようか? いやぁかたじけない!」


と、ちょっと嬉しそうに言いました。なんや、プレゼントと勘違いしたみたいです。


 わたしは、三成みつなりさんがカン悪いんは、一生治らん思いながら、改めて熱湯風呂のを説明しました。


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「なるほど・・・つまりは、罪人が辱めを受けることで、みそぎをするのですな? 本当に生死を問われる必要はないと」


「そうです。熱がるところをお客さんに面白がって貰えばええんです」


「なるほど! つまりは、お客様が神様であろう?」


 わたしは、三成みつなりさんスゴイ思いました。もう一回説明し直しただけで、熱湯風呂を今度こそ完全に理解しました。めっちゃ賢い。


「そうです。死ぬほど熱くなくてもええんです。ギリギリ我慢できて、ちょっと派手に演技できるくらいがええんです。それでお客さん喜んでくれたらええんです」


 三成みつなりさんは、わたしのの説明に、何度もなんどもうなづきました。でも、最後の一回だけ、ちょっとだけ首をひねりました。


「はたして、権兵衛ごんべえ殿に、そんな繊細な演技ができるであろうか・・・」


 ・・・ホンマや。


 わたしは、ついさっき、権兵衛ごんべえさんが、どうしようもないアホやと教えてもらったばっかりでした。歯をガタガタいわせて、ダラダラダ鼻水流しながら三成みつなりさんに、教えてもらったばっかりでした。


「じゃあ、こうしましょう。めっちゃ熱いけど死ぬほどやなくて、でも、演技できんくらいめっちゃ熱い、めっちゃええ感じの湯加減!」


「なるほど! めっちゃ熱いけど命取られるほどではなく、でも、演技ができぬほどめっちゃ熱い、めっちゃええ感じの湯加減ですな!」


 わたしは、三成さんと一緒に、ご飯にかけるラー油みたいな湯加減を、目指すことにしました。


「そこまで冷ますんには、どれくらいかかります?」


「そうですな。ちょうど茶の湯の頃合いの温度でござろう? さすれば、煮えたぎる湯からは四半刻といったところ・・・ううむ、熱湯風呂の儀には、少しだけ間に合いませぬな」


 なんやまた四半刻出てきました。でも、ぐらぐら沸いた熱湯がお茶飲めるくらいに冷める時間なのはわかりました。鉄釜やから、急須で冷ますんより時間かかりそうってことも、わかりました・・・めっちゃようわかりました。


「ソロリちゃん、すまぬが先に、おくにさんとのややこ踊りをお願いできるか? それがしは、鉄釜の番をして頃合いを図る」


 わたしは、三成みつなりさんが、急に頼もしく感じました。自分で考える三成みつなりさんは、ちょっとカッコええ思いました。


「そろそろ、真昼九まひるここのつ関白かんぱく殿が参られる。事情はそれがしがそれとなく説明しておくゆえ、ソロリちゃんは、おくにどのと、ややこ踊りの準備を!」


「はい!」


 わたしは、元気よく答えました。右手をあげて、元気よく答えました。


 わたしが、熱湯風呂のセットから出ようとすると、白い布「バサァ」言わして関白かんぱくはんが入ってきました。


三成みつなりぃ! 準備はどないや!」


 関白かんぱくはんは、三成みつなりさんの向かって右に立ちました。

 向かって左の三成みつなりはんは言いました。


「申し訳ござらぬ。いささか準備がおしてるゆえ、ソロリちゃんのややこ踊りと順番を入れ替えもうす」


 向かって右の関白かんぱくはんは、めっちゃ怖い顔して言いました。


「なんやとぉ! 絶対間に合わせ言うたやろぅが!」


 めっちゃ怒ってる関白かんぱくはんに、向かって左の三成みつなりさんは、関白かんぱくはんの耳元で何かをささやきました。


 めっちゃ怒っていた関白かんぱくはんは、突然「ニカっ」と笑うと、思い切り三成みつなりさんの頭を引っ叩きました。「スパーン」と良い音をさせて引っ叩くと、関白かんぱくはんは、大きな声で言いました。めっちゃゴキゲンな声で言いました。


「そりゃ権兵衛ごんべえも、ややこ踊りを見たいわなぁ! 助平すけべえ権兵衛ごんべえには特等席で見せてやろ!」


「それは、妙案にございます! 早速、権兵衛ごんべえ殿をひったてて参りましょう!」


 そう言うと、三成みつなりさんは、白い布「バサァ」言わして、熱湯風呂のセットから一目散に出て行きました。一目散に出て行った三成みつなりさんの顔は、自信にみなぎってました。


 わたしはニコニコしながら、三成みつなりさんを追いかけました。

 白い布「バサァ」言わして、熱湯風呂のセットから飛び出しました。



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