40.やらかしたらネタにします。

 カカシの山名やまなさんは、一切表情変えんと、小さい声で言いました。


「(おそらく、この場を借りて、関白かんぱく殿にびをいれるつもりなのでしょう。先ほど脱ぎ捨てた【鈴鳴すずなり武者むしゃ】の装束が、何よりの証拠。あれは、権兵衛こんべえ殿が昨年の合戦でまとった、【死装束しにしょうぞく】ですので」


 わたしはちょっと納得しました。やらかしたらネタする。芸人さんがよくやってます。もう十年くらい前に、浮気が原因でめっちゃ有名な女優さんと離婚した芸人さんなんか、未だにネタにしてます。


 権兵衛ごんべえさんは、上半身裸で汗だくだく流しながら話を続けました。ピリついた空気の中、話を続けました。


拙者せっしゃは、藤吉郎とうきちろう様より預かった、伏見城ふしみじょう城絵図しろえずをたずさえ、桃山ももやまにある旅宿に泊まりました。大事な城絵図しろえずは、こう・・・ふところに入れて・・・こう・・・ギュッとやって眠りにつきました」


 権兵衛ごんべえさんは、胸元でガッチリ腕を組んで、みんなの前に仰向けに寝転がりました。ダイブして寝転がりました。


「痛つ!」


 権兵衛ごんべえさんは、キンキラキンの「豊臣秀吉」の目を出したサイコロが、お尻に刺さってのたうちまわりました。寝転んだまんま、ギッタンバッタンのたうちまわりながら痛みに堪えました。

 大阪城の大広間が、軽い笑いに包まれます。キンキンだった大阪城の大広間が、ちょっとだけあったかくなりました。


 わたしは、ひょっとしたら、なんとかなるかな? って思いながら、ニコニコしながら話を聞き続けることにしました。


 権兵衛ごんべえさんは、寝転がりながら、お尻の痛みに耐えて話を続けます。胸元でガッチリ腕を組んで話を続けます。


拙者せっしゃは・・・こう・・・城絵図しろえずを抱いたまま寝ておりました。すると! 突然!! 誰かにくすぐられたのでございます!!!」


 そう言うと、権兵衛ごんべえさんは、笑いながら身体をくねらせ始めました。


  ・

  ・

  ・

 よわい、弱すぎる。あんなおもろいパブニングのあと、この話は弱すぎる。

  ・

  ・

  ・


 サイコロ刺さって、ちょっとあったまった大阪城の大広間は、すぐにキンキンに冷えました。


「ウヒャウヒャウヒャウヒャ、こら! くすぐるで無い! くすぐるで無い! ウヒャウヒャウヒャウヒャ・・・ウヒャウヒャウヒャ」


 キンキンになった大阪城の大広間で、権兵衛ごんべえさんは、必死になって、くすぐられる演技をしました。必死になって、めっちゃ下手なくすぐられる演技をしました。


「こら! くすぐるで無い! くすぐるで無い! ウヒャウヒャウヒャウヒャ・・・ウヒャウヒャウヒャ」


 そう言いながら、権兵衛ごんべえさんは、胸元でガッチリ組んでいた手を、少しずつ開きました。


「こら! くすぐるで無い! くすぐるで無い! ・・・あぁ!!」


 そう言うと、権兵衛ごんべえさんは、胸元で組んでいた腕を、バーンって畳に打ち付けました。


  ・

  ・

  ・

 これは、

  ・

  ・

  ・

 ダメや。

  ・

  ・

  ・


 権兵衛ごんべえさんは、はぁはぁ言いながら、起き上がってわたしの前で正座しました。畳の上は、上半身裸で横になってた権兵衛ごんべえさんの汗で、グチョグチョになっていました。

 権兵衛ごんべえさんは息を整えると、声を張り上げで言いました。


「・・・こうして拙者は、天下の大泥棒、石川いしかわ 五右衛門ごえもんに、まんまと城絵図しろえずを盗まれたのでございます!!!」


 大阪城の大広間は、キンキン通り越して、ギンギンに冷え切っていました。


 小早川こばやかわさんは、うつむいて目を抑えています。策伝さくでんさんは、めっちゃ苦々しい顔して首ひねってます。三成さくでんさんは、ビチョビチョになったわたしのハンカチを、ギュッと絞ってから、もう一回、顔をビチョビチョ拭きなおしています。カカシの山名やまなさんですら「はぁ」とため息をつきました。


 ちぃちゃいゴリラの関白かんぱくはんは、権兵衛ごんべえさんに聞きました。めっちゃ怖い顔して聞きました。


「なあ権兵衛ごんべえ・・・お前、ワシにウソついとるやろ? 石川いしかわ 五右衛門ごえもんちゅう訳わからんコソドロに盗られたんやのうて、ホンマはどっかに落として、無くしたんやろ?」


 権兵衛さんは、めっちゃ怖い顔した関白かんぱくはんを見ながら、汗ダクダク流してんのに、ガクガクのブルブルにめっちゃ震えながら言いました。


「・・・さように・・・ござります」


「・・・そうか・・・権兵衛ごんべえ・・・よう白状した」


 そう言うと、ちぃちゃいゴリラの関白かんぱくはんは、右手を大きく振りかぶって、大きく息を吸いました。

 そして、振りかぶった右手を、思いっきり権兵衛ごんべえさんに振り下ろしながら、思いっきり声を張り上げました。


「打ち首! 獄門!!!」


わたしは、打ち首獄門やなくて「結果発表!」みたいな言い方なやと思いました。

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