39.石川五右衛門? 聞いたことないなぁ・・・。

 わたしがキンキンに冷え切った大阪城の大広間で、ポケットをハンカチでパンパンにしとけば良かったって、めっちゃ後悔していたら、おもむろに小早川こばやかわさんがしゃべり始めました。


石川いしかわ 五右衛門ごえもん? 聞いたことないなぁ・・・策伝さくでん和尚はご存知ですか?」


 さすが、小早川こばやかわさんです。石川いしかわ 五右衛門ごえもんの話を広げる、カンペキな返しや思います。しかも一旦、策伝さくでんさんに話振って、権兵衛ごんべえさんが、落ち着ける時間作ってます。すごい! 


「ふうむ・・・私も知りませんな。学がのうて、申し訳ありまへん」


 そう言うと、策伝さくでんは、隣に座ってる権兵衛ごんべえさんに、深々をおじぎをしました。

 策伝さくでんさんもすごい! 権兵衛ごんべえさんに謝って、恥を上書きしてもうた。


「・・・いえ、大丈夫っス!」


 権兵衛ごんべえさんも、申し訳なさそうに誤り返しました。


 小早川こばやかわさんは、策伝さくでんさんと、権兵衛ごんべえさんのやりとりをチラチラ見ながら、頃合いを測って権兵衛ごんべえさんに質問しました。


「大泥棒って言いましたよねぇ・・・うーん・・・権兵衛ごんべえ殿、もしかしたら、何か盗まれた?」


 その質問に、権兵衛ごんべえさんは食いぎみに乗っかりました。


「そう! そうです! 憎っくき石川いしかわ 五右衛門ごえもんは、拙者から大事な物を盗んだんです! 藤吉郎とうきちろう様から預かった、大事な大事な伏見城ふしみじょう城絵図しろえずを盗んだんです!」


 ・・・藤吉郎とうきちろう? 誰それ?


 わたしは新しい登場人物が出てきて混乱しました。周りを見渡しても、顔色がすぐれません。ほら、やっぱりみんな混乱しとる。


 小早川こばやかわさんは、目を抑えています。策伝さくでんさんは、めっちゃ厳しい顔して首ひねってます。三成さくでんさんは、ふところからわたしのビチョビチョのハンカチ取り出して、ビチョビチョ拭きまくっています。


 そして、関白かんぱくはんは・・・めっちゃ怖い顔してました。めっちゃ怖い顔して、権兵衛こんべえさんをニラみつけていました。


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 なんや? このピリついた空気。

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 わたしは、隣にいるカカシみたいに表情変えん山名やまなさんに、こっそり耳打ちしました。


「(あの・・・藤吉郎とうきちろうって誰です?)」


 カカシの山名やまなさんは、一切表情変えんと、小さい声で言いました。


「(関白かんぱく殿の、昔のお名前です。どうやら、権兵衛こんべえ殿は、関白かんぱく殿の大事な任務を失敗したご様子)」


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 なんで? なんで今、それ話すん?

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 カカシの山名やまなさんは、一切表情変えんと、小さい声で言いました。


「(おそらく、この場を借りて、関白かんぱく殿にびをいれるつもりなのでしょう。先ほど脱ぎ捨てた【鈴鳴すずなり武者むしゃ】の装束が、何よりの証拠。あれは、権兵衛こんべえ殿が昨年の合戦でまとった、【死装束しにしょうぞく】ですので」

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