29.私はどうやって助かったでしょう?

通康みちやす殿は私のケツを思いっきり蹴り飛ばしました。

私は、大海原おおうなばらに突き落とされたのでございます」


 わたしは、バカかわ・・・やない、 小早川こばやかわさんの話を聞きながら「この人、なんて運ないんやろ」思いました。これは助からん、思いました。


「さて、私は冒頭、自分のことを、ただただ恥をさらして、運だけでなんとか生きてこれた凡将ぼんしょうと申し上げました。

 そう、私には運がありました。恥運ちうんがございました。

うかつにも海賊に単身交渉を挑み、愚かに大海原おおうなばらに突き落とされた私は、運だけはついておりました。さて、ここで問題です。私はどうやって助かったでしょう?」


「はい!」


 わたしは元気よく手を上げました。


「よし!ソロリちゃん行ってみよう!」


 わたしは、ひらめいてしまいました。「ピーン!」って、きてしまいました。まちがいない思います。わたしは、ソロリを忘れて元気よく答えました。


「海の神さんが助けてくれました!!」

「違います!」


 自信満々で答えたわたしに、小早川こばやかわさんは、秒でダメ出ししました。ニヤニヤしながら、秒でダメ出ししました。


「ザンネーン。僕の名前には【魚】がついてない!」

「あ、そっか!」


 わたしは秒で納得しました。

 大阪城の大広間が、笑いに包まれます。

 わたしは、やっぱり小早川こばやかわさんはスゴイ思いました。スゴイ小早川こばやかわさんは、話を続けました。



「私が、生きながらえたのは、三つの幸運によるモノでございます。


 ひとつは季節。

 立夏りっか過ぎた温暖な気候のおかげで、私は体の体温を奪われることなく、海を漂う事ができました。また、この季節は雨が多い季節。天の恵みが私ののどうるおしてくれました。


 ふたつは海流。

 瀬戸内からは、琉球りゅうきゅう王国への海流が通じております。

来島くるしまの村上海賊が、いかに屈強といえど、己の力だけで琉球りゅうきゅう王国に赴くのは骨折れる行為でございます。

 ですが、帆を張り、風と海流の力を借りれば、琉球りゅうきゅう王国への奇襲も、さほど困難ではありません。

 私の体に帆は生えてありませんが、幸い、海流の恩恵は、帆がなくとも受ける事ができます。私は、海流に乗って、琉球りゅうきゅう王国へと流されて行きました。


 最後に明王朝みんおうちょうの交易船。

 これが何よりの幸運でございます。私は、琉球りゅうきゅう王国付近を漂流中、偶然通りかかった明王朝の交易船に、助けられたのでございます。

 ですが、私がいくら幸運といえど、偶然通りかかった交易船の行先まで変えることはできません。

 明王朝みんおうちょうの交易船の行き先は、ポルトガルの占領地、伴天連バテレンはイエズス会の拠点、マラッカでございました」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る