28.小バカ川くん、バイバイしーん♪

「私は、通康みちやす殿に言われるがまま、来島くるしま海賊の関船せきぶねに乗り込みました。愚かにも、言われるがまま乗りこんだのでございます。」


 わたしは、小早川こばやかわさんの話はほとんどわかりません。けど、なんやイヤな予感がしてきました。


関船せきぶねは、中型の船でございます。安宅船あたけぶねよりも小さく、小早船こはやぶねよりも速さ小回りが劣りますが、安宅船あたけぶねより速く、小早船こはやぶねより戦に向きます。とどのつまり、単独奇襲には最適の船でございます」


 わたしは、小早川さんの話はほとんどわかりません。けど、なんや猛烈にイヤな予感がしてきました。


「私が関船せきぶねに乗りこむやいなや、海賊衆は、私の手足を縛り、私は、目隠しをされました」


 ・・・やっぱりや。ガタイが良くて坊主で目つきが悪い裏声の人に、ろくな人おらん。通康みちやすさんは、ほんまモンのろくでなし思います。


 小早川こばやかわさんは、手を後ろに組んで、猫背になって、目を閉じながら叫びました。


「み、通康みちやす殿、なにをなされる!?」


 じょうず。小早川こばやかわさん、縛られた演技、めっちゃじょうず。


 小早川こばやかわさんは、今度は背中を思いっきりそらして、ろくでもない裏声で叫びます。


「『”やーい、だまされたしん! ノコノコひとりで海賊のアジトに来るからだしんよ♪”』」


 じょうず。小早川こばやかわさん、通康みちやすさんのろくでもない演技、めっちゃじょうず。


「『”野郎ども、琉球りゅうきゅうに停泊していた伴天連バテレンの船が、薩摩さつまを目指しているしん! 襲って見ぐるみはがすしんよー♪”』」


 小早川こばやかわさんは、素早く猫背になって、目を閉じて話を続けました。


通康みちやす殿の号令で、海賊どもは「おおーー〜!」と叫び声をあげると、螺貝ほらがいが吹かれ、太鼓が打ち鳴らされました。

『ブォーーーー! ドン!ドン! ブォーーーー! ドン!ドン!』」


 小早川こばやかわさんは、目を閉じながら話を続けます。



「『ブォーーーー! ドン!ドン! ブォーーーー! ドン!ドン!』

船がするりと動く気配がします。

『ブォーーーー! ドン!ドン! ブォーーーー! ドン!ドン!』」

風を感じて船が速くなるのがわかります。

『ブォーーーー! ドン!ドン! ブォーーーー! ドン!ドン!』」

『ブォーーーー! ドン!ドン! ブォーーーー! ドン!ドン!』」

 ・

 ・

 ・

ほら貝と太鼓は、一刻ほど鳴り続けたでしょうか」


「『”よーし、休憩するしんよー♪”』」


通康みちやす殿の号令で、船はゆるりと止まりました。

私は、おもむろに目隠しを取られると、そこは、見渡す限りの大海原おおうなばらでございました」


「『”それじゃあ、荷物をおろすしん♪”』」


通康みちやす殿がそう言うと、家来の海賊衆が私を担ぎ上げました。

担ぎ上げられ、船首まで連れて行かれて先端に立たされました。


「『”それじゃ、バカかわくん、バイバイしーん♪”』」


そう言うと、通康みちやす殿は私のケツを思いっきり蹴り飛ばしました。

私は、大海原おおうなばらに突き落とされたのでございます」




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