26.あれはウソでございます。

 わたしは、厳島いつくしまが瀬戸内海にあって、小早川こばやかわさん家の複雑な家庭事情を教えてもらって、「ちょっと反省せな」思いながら、小早川こばやかわさんの話を聞くことにしました。


厳島いつくしまの戦いが起こったのは天文てんぶん二十四年、立冬りっとう程近い霜降そうこうの日ことでございます。私は、まだ二十歳はたちそこそこの若輩者でございました」


 小早川こばやかわさんは、さっきまでとはうってかわって、堂々としゃべり始めました。小早川こばやかわさんが堂々としゃべり始めたので、わたしは、小早川こばやかわさん言ってることが、ほどんどわからんようになりました。しゃーないんで、だまってニコニコしながら話を聞くことにしました。


「私が父の毛利もうり元就もとなりよりたまわった任務は、村上海賊むらかみかいぞく衆の調略でございました。何事においても慎重に最善を尽くす父が、わたしに村上海賊むらかみかいぞく衆への調略を指示したのは、天文てんぶん二十四年、正月早々のことでございます。厳島いつくしまの戦いの九ヶ月ほど前のことでございます」


 大阪城の大広間は、「おおおぅ」と、感心の声に包まれました。中でも小早川こばやかわさんの正面に座っている三成みつなりさんは、ひときわ大きな声で、ひときわ目を見開いて感心していました。


 わたしは、小早川こばやかわさん言ってることが、ほどんどわからんので、だまってニコニコしながら話を聞き続けました。


「ご存知の通り、村上海賊むらかみかいぞく衆には三つの勢力がございます。ひとつは因島いんのしま村上氏、二つ目は来島くるしま村上氏、最後に、最大の勢力を誇る能島のしま村上氏でございます。

私が城主を務めていた、備後びんご国の新高山にいたかやま城から程近い、因島いんのしま村上氏とは、早々に互助力ごじょりょくの約束をとりなす事ができました」


 大阪城の大広間は、再び「おおおぅ」と感心の声に包まれました。


「ですが、我が小早川こばやかわ水軍と、因島いんのしま村上氏の戦力を束ねても、せいぜい小舟140そうほど、毛利もうり本軍と合わせても、200そうほどでございます。強大なすえ軍を迎え討つには、とても戦力が足りません。

私は、来島くるしま能島のしま、両村上氏との調略を始めました。時は立夏りっかをすぎた頃でございます。

・・・そして、ここでひとつ、私は訂正しなければならない事がございます。先ほど、私はソロリちゃんの話のバナナですべった話の時に「バナナを食べた事がない」と申しましたが、あれはウソでございます。本当は、一時期、それはもう、毎日のように食しておりました。

理由は、来島くるしま村上氏の党首に騙され、はるか南蛮なんばんに島流しったからでございます」


 大阪城の大広間は、「えぇえぇ」と、と驚きの声に包まれました。中でも小早川こばやかわさんの正面に座っている三成みつなりさんは、ひときわ大きな声で、ひときわ目を見開いて、「えぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」と、驚いていました。

 

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