22.これどうにもならん?

「魚の神さんは『人魚』や思います」


「人魚・・・? はて、本当に人魚なのだろうか」


 わたしが答えると、カカシみたいな山名やまなさんは、首をかしげて無表情で言いました。


「人魚は、人食いの化け物です。家康いえやす様の御家来ごけらい松平まつだいら家忠いえただ様が、記録を残しておられます。今より十年ほど前のことでございます」


 ちぃちゃいゴリラの関白かんぱくはんが、うんうんと、うなづきました。


安土あずちに現れた人魚は、丘に上がり人をむさぼり食い、金切り声で「殿恋とのこいし・・・」と泣き叫んだと言われております。安土あずちに城構える信長公しんちょうこう本能寺ほんのうじでお隠れになったのは、その翌年。まこと不吉なモノです」


 わたしは、山名やまなさんが言っている事は、ほどんどわからんかったけど、わたしの知ってる人魚と、エライ違うなと思いました。

 あ、でも「殿恋とのこいし」と言ったんは似てると思いました。確か、王子様が好きで、足生やした思います。

 でも、千葉の方におる・・・アリ・・・アリエ・・・忘れたけど、少なくともその人は人間なんて食べないと思います。めっちゃコワイ。


 そんなことを考えながら「笑ったらどうにかなるかな?」と思ってニコニコしてると、みんなが無表情でこっち見てました。


・・・あかん、これどうにもならん?


 わたしは、赤くてちぃちゃいドリンクと同じ名前の賞レースのことを思い出しました。三回ネタやって、三回ともすべった事を思い出しました。背筋がゾゾゾゾってしました。


 背筋がゾゾゾゾってなりながらも、しゃーないんでニコニコしてると、小早川こばやかわさんが目頭を押さえ始めました。目頭を押さえて、上を向いて何か考えていました。しばらく考えていました。そして、わたしに向かって、


「その人魚の瞳、何色?」


と、ソロリと質問してきました。


「え? 目の色ですか? 確か・・・青・・・やったかな?」


わたしが答えると、小早川こばやかわさんは食い気味に


「あー! そっち系かぁ! 伴天連バテレンのぉ?」


と言いました。策伝さくでんさんが、素早く会話に割り込んできました。


「いやー、思い出しました。学がのうてスッカリ忘れとりました。朝野あさの 魚養なかい はんを助けた人魚は、伴天連バテレンの人魚でした。そうやろ? ソロリちゃん!」


 わたしは、策伝さくでんさんが、ちょっとなにいってるかわからないのでニコニコしていると、小早川さんがヒントをくれました。


「ほら、えーっと、ここよりずっと西の、海を越えた、ずっと、ずーーーーーと西の方の・・・!」


 小早川こばやかわさんが、完全に血の気がひいた顔で、わたしにヒントをくれました。真剣にヒントをくれました。小早川こばやかわさんがあんまり真剣にヒントをくれるので、わたしは真剣に考えました。真剣に考えて、そして、思い出しました。


「そういえば、西の方の寒い国に、人魚の銅像あります。観光名所になってます」


 わたしが答えると、今度は三成みつなりさんが、食い気味に話に割り込んできました。


「なんと! 銅像がある!」


「はい。確か海辺にあった思います」


 わたしが答えると、三成みつなりさんは、これ以上ないくらい目を見開いて質問をしてきました。目を見開いて、真剣に質問をしてきました。


「銅像があると言う事は、その人魚は、尊いお人であろう? 御仏みほとけ比肩ひけんする尊いお人であろう? その人魚は、尊いお人であろう????」


 わたしは、三成みつなりさんが、ちょっとなにいってるかわからないけど、とりあえず、


「はい!」


て、ニコニコしながら答えました。元気にニコニコしながら答えました。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る