21.千葉の方でみたことあります。

遣唐使けんとうしはドッカーーーンンて、はじき飛ばされバッシーーーーンンと船首にしたたか腰打ち付けました」


 策伝さくでんさんの話に、わたしは思わず叫んでしまいました。


「バチ当たった!!」

「バチ当たった!!」


関白かんぱくはんと見事にハモリました。わたしは関白かんぱくはんが、結構好きになりました。


 策伝さくでんさんは話のシメに入ります。


「こうして、朝野あさの 魚養なかい はんは、父親に連れられてとうで書を学び、大般若経だいはんにゃきょう三十三巻を写経して持ち帰ったのでございます・・・以上、ありがとございました!」


 話が終わると、策伝さくでんさんは深く深くおじぎをしました。

 大阪場の大広間は、大きな拍手に包まれました。


「いやー、心がスーッとしたわ!」


 関白かんぱくはんが大喜びで、策伝さくでんさんを褒めました。わたしも、心がスーッとしました。エライ遣唐使けんとうしにバチ当たって、スーッとしました。心がスーッとして、ニコニコしながら策伝さくでんさんに拍手をしました。


「いやしかし、魚の神様は、すばらしいですな」


 三成みつなりさんも褒めました。続けて、小早川こばやかわさんも褒めました。


策伝さくでん和尚、せっかくだから、備前国びぜんこくに建立している大雲寺だいうんじに、魚の神をまつられてみては?」


 小早川こばやかわさんの提案に、関白かんぱくはんが喰いつきました。


「そら、ええ考えや! なあ、策伝さくでん和尚、仏師ぶっしに魚の神さんの像掘らせるさかい、どんな姿しとるんか教えてくれんか?」


 策伝さくでんさんは、ちょっと顔をピクつかせました。そして、ちょっと考えてから言いました。


「申し訳ありません。私は、学もコネもないただの坊主でございます。魚の神がどよのうなお姿をしてらっしゃるのか、想像もつきまへんな」


 策伝さくでんさんの言葉を受けて、山名やまなさんが無表情でボソリと言いました。


干支かんし七度廻る未来から来られたソロリちゃんなら、ご存知では?」


 山名やまなさんの言葉で、みんながわたしの方を向きました。わたしは、自信満々で返事しました。


「ええ、知ってますよ」


 わたしは、知ってました。間違いないと思います。千葉の方にある夢の国らしきところで、みたことある人や思います。アリ・・・アリエ・・? 名前は思い出せんけど、どんな人かはハッキリわかります。


 わたしは、ゆっくり考えて、ソロリと答えました。


「魚の神さんは『人魚』や思います」


 大阪城は静かになりました。わたしは、ちょっと空気が冷たく感じました。

 大阪城が、しばらく「シーン」となった後、山名やまなさんが、首をかしげながら言いました。


「人魚・・・? はて、本当に人魚なのだろうか」


 カカシみたいな山名やまなさんは、首をかしげて無表情で言いました。

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