20.関白はん、こズルイ。

「で、策伝さくでん和尚、なんの話してたんやっけ?」


 年末に大閤たいこうになる、ちぃちゃいゴリラの関白かんぱくはんが、策伝さくでんさんにたずねました。策伝さくでんさんは、関白かんぱくはんに頭を下げてから、説明をはじめました。


「申し訳ありまへん。学ないばかりに、おもんない話を長々としてしまいました。

要するに、女作って子供作ったアホタレの遣唐使けんとうしが、船乗ってとうにトンズラするお話ですわ」


「かぁー! こズルイやっちゃなー!」


 策伝さくでんさんの説明に、関白かんぱくはんが、すぐさまあいづちを返しました。


 わたしは「関白かんぱくはん、こズルイ」思いました。居眠りしてたのに説明してもらって「こズルイ」思いました。

 わたしは、関白かんぱくはんがちょっとキライになりました。


 小ずるい関白かんぱくはんが、話の内容を理解したんで、策伝さくでんさんは話を続けます。


「可哀想なんは、残されたお母はんと、その子供の朝野あさの 魚養なかい はんです。

お母はんは、とうから帰ってくるエライ遣唐使けんとうしをどんだけ待ちわびたことか。待ちわびて待ちわびて、どんだけ苦しんだことか。苦しんで苦しんで苦しんだあげくの果てに裏切られて、どんだけ落ち込んだことか」


 わたしはお母さんかわいそう思いました。


「・・・もう、生きててもしゃあない。お母はんは、子供の朝野あさの 魚養なかい はんと一緒に、播磨の海に身投げなさりました」


 わたしはエライ遣唐使けんとうしろくでもない思いました。バチ当たれ思いました。


「哀れ母子は播磨はりまの海に身を投げ、海のもくずと消える・・・誰もがそう考える思います。でも、奇跡が起こりました。海の中から手が「にゅううう」と生えてきて、母子をがっしり掴みました。つかんだんは、魚の神さんですわ」


 策伝さくでんさんは話を続けます。


「助けられたんは、朝野あさの 魚養なかいちゅう名前の縁や思います。名前に【魚】がはいとった縁や思います。魚の神さんは、お母はんを岸に戻すと『子供は必ず父親に面倒みさせる』て言いいました」


 策伝さくでんさんは話を続けます。


「魚の神さんは、朝野あさの 魚養なかい はんを背中に乗っけて、エライ速さで、波の上を飛び跳ねるように泳ぎました。そりゃもう、エライ速さで泳ぎはりました。

そして、遣唐使けんとうしの船を見つけると、バーンと飛び跳ねて、そのまま尾びれでバッチーーーーンて、トンズラ遣唐使けんとうしに平手打ちかましたりました」


「よっしゃー!!」

「よっしゃー!!」


 わたしが叫ぶと、関白かんぱくはんと見事にハモリました。わたしは、関白かんぱくはんが、ちょっと好きになりました。


 策伝さくでんさんは話を続けます。


遣唐使けんとうしはドッカーーーンンて、はじき飛ばされバッシーーーーンンと船首にしたたか腰打ち付けました」


「バチ当たった!!」

「バチ当たった!!」


 わたしが叫ぶと、今度も関白かんぱくはんと見事にハモリました。わたしは、関白かんぱくはんが、結構好きになりました。

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