19.関白殿は、エライお人ではございません。

「そのお父さん、エライけどろくでなしや! 約束守らんろくでなしや!」


 わたしが、策伝さくでんさんの話に出てくる、エライお父さんに、めっちゃ腹たって叫んだら、


「ソロリちゃんの言うとおり!

 世の中、エライ人ほど、ろくでなしでございます!」


と、鼻と口の間に大きなホクロがある三成みつなりさんが、わたしの方を向いて、目を大きく見開いて大声で叫びました。


 すると、


「なんやと・・・三成みつなりぃ?」


関白かんぱくはんが、えらいドスの効いた声で、三成みつなりさんの背中につぶやきました。


 三成みつなりさんは、ギギギギィと、首を関白かんぱくはんの方に向けました。


 さっきまで、策伝さくでんさんの話に居眠りしてた、ちぃちゃいゴリラの関白かんぱくはんが、三成みつなりさんの顔を睨みつけました。


 三成みつなりさんは、関白かんぱくはんにニラみ付けられて、汗をダクダク流し始めました。


「エライ人ほど、ろくでなしやとぉおお!?

 おいコラ三成みつなりぃ! この日の本で、いちばんエライん誰じゃ! おい、言うてみい!」


 関白かんぱくはんはすごい剣幕でまくしたてました。


 三成みつなりさんは、わたしが貸したビショビショのハンカチを懐から出すと、ビショビショの顔を、ビショビショと拭き始めました。


 わたしは「さすがに笑ってもどうにもならん」と思いながらニコニコしていると、となりにいる山名やまなさんが、ポツリとつぶやきました。


「・・・関白かんぱく殿は、エライお人ではございません」


「なんやとぉ、おいコラ山名やまなぁ! 落ちぶれモンが、なに調子こいてんや!」


 関白かんぱくはんは、三成みつなりさんをニラんだ時以上に、すごい顔して山名やまなさんをニラみつけました。


 山名やまなさんは、関白かんぱくはんに睨みつけられても、無表情で全く動きませんでした。わたしは、ほんまカカシみたいや思いました。


 カカシの山名さんは、無表情のまま、ポツリとつぶやきました。


「・・・関白かんぱく殿は、大閤たいこうになられる、尊いお方です」


 わたしは、関白かんぱくはんの顔が、少し緩んだ気がしました。

 すかさず、童顔で顔のパーツが中心によった、小早川こばやかわさんが話に割り込んできました。


関白かんぱく殿は、今年の暮れに秀次ひでつぐ殿に官位かんいを譲られるご予定。公家くげの最高位たられる関白かんぱくをも凌ぐお方、もはや現人あらひとなどとは比べることはできますまい。しいて比べるのであれば、もはや、尊い御仏みほとけよりございませぬ」


 小早川こばやかわさんの言葉を聞いた関白かんぱくはんは、ニンマリと笑うと、


三成みつなりの件は、不問にするか」


と言いました。


 三成みつなりさんは「ゴチん」と、畳に頭を激しく打ち付けながら、


「面目ございませぬ!」


と言いました。小早川こばやかわさんも、すかさず頭を下げました。


 そして、畳の上に頭をこすりつけた二人は、ささやきました。


 わたしが「なに話てんやろ?」思いながらニコニコしていると、意味わからん理由でキレて、意味わからん理由でご機嫌になった関白かんぱくはんが言いました。


「で、策伝さくでん和尚、なんの話してたんやっけ?」

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