18.エライお人は、ろくでなしや。

「・・・都が平城へいじょうにあった頃のエライ能書家のうしょかさんの話ですわ」


 わたしは、ニコニコしながら策伝さくでんのぜんぜんわからん話を聞いていました。ふと見ると、ちぃちゃいゴリラの関白かんぱくはんも、ぜんぜんわからんような顔してました。わたしは、関白かんぱくはんがちょっと好きになりました。


 策伝さくでんさんは話を続けます。


朝野あさの 魚養なかい はんは、それはそれはエライお人です。それもそのはず、お父はんは、遥か大陸はとう よりまいられた、遣唐使けんとうし でございます。何でも、幼少時代は、とうにて書の研鑽けんさんをなされたそうでございます」


 わたしは、ニコニコしながら策伝さくでんさんのぜんぜんわからん話を聞いていると、ちぃちゃいゴリラの関白かんぱくはんは、大きなあくびをしました。


 策伝さくでんさんは話を続けます。


「お父はんは、遥か大陸はとう よりまいられた、遣唐使けんとうし でございますが、お母はんは、播磨はりまに住まう、普通のお人でした。

つまり、朝野あさの 魚養なかい はんは、とう よりまいられたエライお人と、播磨はりまに住まう、普通のお人の間に生まれたお方です」


 わたしは、ニコニコしながら策伝さくでんさんのぜんぜんわからん話を聞いていると、ちぃちゃいゴリラの関白かんぱくはんのまぶたは、今にもひっつきそうになっていました。


 策伝さくでんさんは話を続けます。


「エライ遣唐使けんとうし のお父はんは、普通のお母はんに言いました。

『わたしは、一度、とう に帰らねばならぬ、だが・・・子が数え三つとなり髪置かみおききの儀を迎えた後、とうにつれて行きたい。それまで、どうか大事に育てておくれ 』

妻は、エライ遣唐使けんとうしの夫を信じて、朝野あさの 魚養なかい はんを大事に大事に育てはりました」


 わたしは、ニコニコしながら策伝さくでんさんの話を聞きました。朝野あさの 魚養なかい さんが、お母さんに大事に育てられた話を聞いていると、ちぃちゃいゴリラの関白かんぱくはんは、コックリコックリ船をこぎはじめました。ガッツリ居眠りはじめました。


 策伝さくでんさんは話を続けます。


「お母はんは、ホンマ立派なお人です。朝野あさの 魚養なかいはんを、女手ひとつで、立派に数え三つまで育て上げました。

ですが、とうから戻ってきたエライ遣唐使けんとうし のお父はんは、約束を反故ほごにして、別の女にうつつを抜かしておりました。

結局、のらりくらりと逃げおうして、朝野あさの 魚養なかいはんには一度も合わんと、とうへの帰りの船に乗り込みはりました」


「ありえん!」


 わたしは、思わず叫んでしまいました。


「そのお父さん、エライけどろくでなしや! 約束守らんろくでなしや!」


 コックリコックリ船をこいでた関白かんぱくはんは、「ビクッ」って体を震わせました。

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