「六分一殿がきた話」

12.山名さん忘れとった。

「さー次行こうかー!」


 拍手が鳴り止むのを見計らって、ちぃちゃいゴリラの関白かんぱくはんが言いました。


 三成みつなりさんが、サイコロを素早く拾って関白かんぱくはんに渡すと、関白かんぱくはんはすぐにサイコロを転がしました。


 サイコロは、てんてんと転がって、「山名豊国やまなとよくに」とかかれた目を出しました。


山名やまなぁ! お前の番や!」


 関白かんぱくはんは「結果発表!」みたいな口ぶりで、山名やまなさんを指しました。山名やまなさんは、表情を全く変えることなく、


「・・・はい」


と、つぶやきました。


 あ! そういえばわたし、山名やまなさんのことを紹介するの、すっかり忘れていました。あんまり影薄いから、忘れていました。


 山名やまなさんは、さっきからずっと、わたしの左っかわに座ってるお侍さんです。

 でも、さっきから、一言もしゃべらんし、カカシみたいに全然動かんかったから説明するの忘れてました。


 カカシみたいな山名やまなさんは、少し考えてから、静かな小さな声で、


「では、『こぶとり爺さん』の話を一節・・・」


と、つぶやきました。


山名やまな殿の十八番おはこですな」


策伝さくでんさんの言葉に、山名やまなさんは表情ひとつかえず、


「・・・はい」


と、静かで小さな声で答えると、


「では、皆々様、お手数ではございますが、お願いいたしますか?」


そう言って。深く、深く、おじぎをしました。 


 わたしが、ニコニコしながらおじぎをしている山名やまなさんを見ていると、策伝さくでんさんと、三成みつなりさんと、小早川こばやかわさんと、ちぃちゃいゴリラの関白かんぱくはんが、みんなで声をそろえて言いました。


六分一殿ろくぶんのいちどのおなーり!」


 山名やまなさんは、ゆっくり顔を上げました。でも、それは山名やまなさんではありませんでした。


「呼んだかの?」


 山名やまなさんは、バカ殿になってました。ちぃちゃいゴリラの関白かんぱくはんも、金色の着物着たバカ殿やけど、山名さんは、金色の着物着たバカ殿よりも、もっともっとバカ殿でした。バカ殿の中のバカ殿でした。

 

 バカ殿の座をうばわれた、ちぃちゃいゴリラの関白はんは、六分一殿ろくぶんのいちどと呼ばれたバカ殿の山名やまなさんに、うやうやしく聞きました。


「殿、ご機嫌うるわしゅうございます」


「おぉ、猿か、くるしゅうないぞ」


「はは! もったいないお言葉」


 猿と言われた関白かんぱくはんは、ニコニコしながらバカ殿の山名さんに頭を下げました。


 どういうこと? わたしは、ニコニコするのを忘れて周りをみました。


 関白かんぱくはんだけやなくて、小早川こばやかわさんも、策伝さくでんさんも、三成みつなりさんも、バカ殿の山名やまなさんに頭を下げていました。


「・・・みなのもの、おもてを上げい」


 バカ殿の山名さんがそういうと、みんな頭を上げました。みんなニコニコしてました。


 どういうこと? わたしは、ニコニコするのを忘れて周りをみてると、


「ん? みたことない顔がおるのぉ」


そう言って、山名やまなさんが、わたしを扇子せんすで指しました。


「そなた、名をなんと言う?」


「え・・・えっと・・・わたし、ソロリです。曽呂利新左衛門ソロリしんざえもん言います」


曽呂利新左衛門ソロリしんざえもん・・・変わった名じゃのぅ?」


「はい。わたし、元の名前忘れてて・・・小早川こばやかわさんが付けてくれました。ソロリちゃんて読んでください」


「ほぅ・・・ソロリちゃんとな? うんうん・・・ういのう・・・ういやつじゃ」


 バカ殿は、わたしの手を握ってきました。


「殿! お触りは厳禁でございますぞ!!」


 バカ殿の座を奪われた、ちぃちゃいゴリラの関白はんが、山名やまなさんをピシャリとしかりつけました。


 どういうこと? わたしは、ニコニコするのを完全に忘れてしまいました。


 バカ殿の山名やまなさんは、ニコニコしながら、わたしの手を握り続けていました。

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