06.小早川さんスゴイ。でも、めっちゃイジワル。

土用どように地面は揺らぎます! 凶気きょうき大なり時、不運にもバナナですべったソロリちゃんは、干支かんし七度廻る未来からこの時代に飛ばされたんですわ!」


 策伝さくでんさんがしゃべり終わった後、大阪城の大広間は、シーンとしとりました。


 わたしは、「笑ってたらどうにかなるかな」と思ってニコニコしてると、


「バナナのたたりでしょうな」


と、小早川こばやかわさんが言いました。


 ちぃちゃいゴリラの太閤たいこう・・・じゃなかった、関白かんぱくはんの向かって左に座ってる、童顔どうがんで、顔のパーツが中心に寄った、エライお侍さんです。


「バナナのたたり?」


 ちぃちゃいゴリラの関白かんぱくはんが聞き直すと、小早川こばやかわさんは、


「バナナは黄色い果実かじつです。すなわち、土行どぎょう。橋の上にばらまくなどと、食べ物を粗末そまつにしたタタリでしょう。そりゃあ、地震のひとつやふたつ、起きますよ」


 ・・・わたしには、小早川こばやかわさんの言うてることは、わけわからんです。バナナが黄色なことくらいしかわからんです。だから、「笑ってたらどうにかなるかな」と思って、ずっとニコニコしています。


 関白かんぱくはんが、小早川こばやかわさんの説明をボケーと聞いてると、


「おや? 関白かんぱく殿は、バナナをご存知ない?」


と、小早川こばやかわさんは、イジワルそうなニヤニヤした顔で、関白かんぱくはんを挑発しました。


 関白かんぱくはんは、明らかにムッとした顔しとります。小早川こばやかわさんは、全く気にすることなく、説明をはじめました。


「以前、伴天連バテレンのルイス=フロイス殿が、信長しんちょう公にご献上けんじょうしたと聞いておりましたので、てっきりご存知かと・・・」


 小早川こばやかわさんの顔が、さらにニヤニヤします。


「私も一度だけ、ルイス殿よりたまわりました。ちょうどその頃、備後びんごにおられた将軍義昭しょうぐんよしあき様に献上けんじょうしたゆえ、私にも味はわかりかねますが・・・ソロリちゃんなら、ご存知では?」


「ええ、知ってますよ。よう食べます。ジュースにするんが一番好きかな?」


 わたしは、ニコニコしながら答えました。


 小早川こばやかわさんの顔が、さらにニヤニヤします。童顔で、顔のパーツが中心に寄った、小早川こばやかわさんの顔が、さらにニヤニヤします。


「ソロリちゃん、せっかくだから、関白かんぱく殿に、バナナをご説明なさっては?」


「ええですよ。・・・えっと・・・こんくらいの大きさで」


 わたしは、バナナの長さを、両手を使って説明しました。二十センチくらいです。


「太さは?」


「こんぐらいです」


 わたしは、親指と人差し指で輪っかを作って、バナナの太さを説明しました。


「形は?」


「えっと、こんな感じで、ちょっと反ってます」


 わたしは、ジェスチャーで、親指と人差し指の輪っかを、少しカーブさせながら、何度も上下させました。


「硬さは?」


「結構、硬いです」


「でも皮をむくと」


「ちょうどいい具合です」


「どうやって食べるの?」


 わたしは、ジェスチャーで、ていねいにバナナの皮をむきました。


「ゆっくり・・・食べてみて」


 わたしは、ジェスチャーで、バナナにかぶりつきました。想像でかぶりつきました。口があまーくなった気がしました。


「・・・お味は?」


 わたしは、バナナの味を、ゆっくりゆっくり想像して、ソロリと答えました。


「・・・めっちゃ美味しい」


 そういった後、わたしはまわりの視線に気付きました。いやらしい視線に気付きました。特に、ちぃちゃいゴリラの関白かんぱくはんが一番いやらしく見とりました。


 わたしは、アイドルをやらしてもらってるので、人から見られるのにはけっこう慣れています。でも、ふともも以外をいやらしく見られることは、あんまありません。


「もう、小早川こばやかわさん! 何やらすんですか!」


「ゴメンゴメン」


 小早川こばやかわさんがニヤニヤしながら謝ると、ちぃちゃいゴリラの関白かんぱくはんが、


「うひゃーー〜ーヒャひゃっヒャ!」


と、大きな声で笑いました。


「・・・今度、能島のしま村上水軍むらかみすいぐんのセガレ、元吉 もとよしに、バナナを調達するよう頼んでおきます。仕入れたら、関白かんぱく殿に献上しますゆえ。ソロリちゃんと一緒にお食べになるのがよろしいかと」


 わたしは思いました。小早川こばやかわさんスゴイ。でも、めっちゃイジワル。あと、下品。これ、わたしがもといたご時世やったら、ギリギリアウト違います? 



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