4話
もう、知っていると思うけど、僕は、朝ごはんを家で食べない。
この先の曲がり角の先で、みどりとぶつかれば食パンをゲットできるからだ。
ただ、ちょっとしたコツがある。最近はもう、かなり頭を下げておく必要がある。具体的には、腰を90度くらい曲げる必要がある。
僕はこの一週間で、身長がすごく伸びた。20センチくらい伸びたと思う。
「ゴチん!」
頭と頭がぶつかる鈍い音と一緒に、呑気な声が聞こえる。
「おはよう! うん、今日も無事にパンが増えた」
幼なじみのみどりが、頭をさすりながら僕にパンを渡す。
僕とみどりはパンを食べながら、学校に向かう。
しばらく無言でパンを食べて、それから、みどりは独り言のようにつぶやいた。
「前田くんに、告白したんだ。OKしてもらった」
僕は、無言で聞いていた。
「今度の週末、一緒に、遊園地に行くんだ」
僕は、無言で聞いていた。僕はいつだってみどりの言葉を無言で聞くだけだった。
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もう、知っていると思うけど、僕は、朝ごはんを家で食べない。
この先の曲がり角の先で、みどりとぶつかれば食パンをゲットできるからだ。
ただ、今日はもう、みどりと頭をぶつけることはできそうもない。
僕は、5メートルくらいあるからだ。
実は僕も、つい昨日、知ったばかりなんだけれども、僕は、背が伸びていたんじゃなかった。僕の足が、地面から離れてきていたんだ。
そのスピードが、ここ二ヶ月くらいで急速に早くなってきて、ここ一週間は、もう、手に負えないくらいのスピードで早くなってきている。
曲がり角に向かって、歩いてくるみどりが見える。私服だ。今まで見たこともない服だった。多分、
みどりは、曲がり角に立ち止まると、しゃがみこんでパンを一つ置いた。そして、目を閉じて手を合わせると、僕に話しかけてきた。小さい声だったけど、僕には、とてもよく聞こえた。まるで、僕の耳元でささやいているようにハッキリとみどりの声が聞こえた。
・・・細かい説明は省くけど、要するに、僕に「見守っていて欲しい」と言っていた。
そんなこと言われても困ってしまう。だって僕は、今までもずっとみどりを見守り続けてきたんだ。
みどりは、一分ほど手を合わせて、ずっと僕に語りかけていた。そして、僕と話すのを終わると、すっくと立ち上がってそのまま駅に向かっていった。
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今ままでの感覚からすると、僕の背は、明日はスカイツリーくらいになると思う。明後日は、富士山くらいになってると思う。そして、三日後には成層圏を超えるはずだ。
流石にそこまで背が伸びてしまうと、みどりの声も聞こえなくなってしまいそうだ。
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これは、あくまで仮説なんだけど、みどりの声が聞こえなくなった時、僕は、消えて無くなるんだと思う。
そうじゃないと、あの時の出来事が説明できない。
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小学4年生の時、僕は車にはねられたんだ。
ボールを追いかけて道路に飛び出したみどりを、突き飛ばして代わりに車にはねられたんだ。
パンがふたつになるはなし。 かなたろー @kanataro_
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