第2話倫理観壊れちゃ^~う


人の思考ってのはな、その人がこれまで経験したことで形作られてんだ。



「へえ、そうなんですか?初耳っす」



だから俺、ずっと不思議に思ってたんだ。どんな生き方したら、君のように《エイリアン物のSF映画で単独行動してるキャラ並みの知能》になるんだろうってな。



「多分私ならエイリアンと対峙する前に、あの卵みたいなのから飛び出してくるカブトガニ?に殺されそうっす」



あれ正直一番痛そうだよな。しかも宿主にされるし。



「本物のカブトガニが飛び出てくれると嬉しいんですけどね。エンドレスで食べれるっす」



いいなそれ。ウンコしたくなったら卵の口こじ開けてそこに出してやれば、その栄養でまたカブトガニが産まれて…永久機関の完成じゃねえか。



「それエコってやつですよ!私天才っす!

ってあれ、今日は珍しくメガネかけてるんすね?」



ああ、つい昨日メガネ屋に頼んでた度数の調整が終わったんだ。どうだ、知的に見えるだろ?

…それに丁度よかった、今回はこのメガネがないと話が進まない。



「それ随分ボロボロですね。耳掛けが曲がってるっすよ」



勿論オンボロなのにも理由があるんだ。最初にしてやった人の思考についての小話もな。

俺の話は全部つながってるんだ。





*            *            *





突然だが、君は何かのコミュニティに属しているか?



「えっと、学校とかですかね」



だろうな。未成年の日本人の大半は学校という組織・コミュニティに属している。

…じゃあ、なんで君は学校に入った?



「え?うーん。勉強しないといけないから…ですかね」



では何のために勉強しないといけないんだ?それに勉強って家でもできるのに、なんでわざわざ学校に行くんだ?



「ええ!?そんなこと…んー。社会人になるため?」



その社会人ってなんだ?それに社会人って学校に通わなくちゃなれないのか?



「な、なんか第一話の時と流れ似てません!?」





*            *             *





世界の見え方は『見える人』と『見えない人』で全く異なる。


そして、一つ確実に言えることがある。いつも馬鹿を見るのは『見えない人』だ。






俺はあの時のオカルトブームで一つ学んだことがある。それは、人は知らず知らずのうちに『周りの影響』で特定のコミュニティに受動的に参加することだ。決して能動的ではなくな。本人たちからすれば、知らぬ間にコミュニティに所属してたって感じだろう。だが、彼らはそれに違和感を覚えはしないし、一種の集団意識すら芽生えていた。



「ああ、この前言ってた新興宗教ってやつですね」



そう、そして当時そのチャンネルから早期に違和感を感じたのは、このオンボロメガネがあったからだ。

…俺はそんなコミュニティの本質を知って酷く恐ろしく思えたを覚えている。だが、少なくともアレを経験するまでは、ガキの俺にそんな恐怖心は無かった。





*              *           *





どの学校にも特別支援学級ってのがあるだろ?



「確か、障がいのある子が在籍するクラスですよね」



俺の通っていた学校には、1人だけ在籍している奴がいた。そいつは外見からでは知恵遅れがあるとはわからない、いわゆる軽度だった。そいつは良くいじめられていた。いじめっ子は教師や親にバレるのを嫌って、傷が付く暴力はしなかった。だから陰口とかの陰湿な嫌がらせがメインだ。



「私もそういうの見たことあります。でも、とっさに庇ってしまって私もいじめの対象になったんすけど、その子へのいじめはもっと過激になって、学校に来なくなっちゃいました…」



俺はその様子を見て、学校は社会の縮図と言われる理由が分かった気がした。

だが、気がした『だけ』だった。俺のガキな脳は、まだ社会の底・コミュニティの本質を理解できていなかった。



当時俺はチンケな正義感に駆られていたんだろう。その場で助けることはしなかったが、そいつの数少ない話相手になってやった。そいつは脳の障がいのせいか、何言ってるのかほとんど聞き取れなかったが、その時は確かに友達だったと思っていた。俺はな。



だが、どうだろう。俺が話し相手をしたところで社会のヒエラルキー、三角形のコミュニティの本質は変わるだろうか。











気付けば俺はそいつに首を絞められていた。顔はよく見えなかったが、笑顔とは違う引きつった真っ赤な顔で、俺の首を絞める。その時にこのメガネが吹っ飛んでそいつに踏まれた。



そいつは俺を自分より下の人間だと思っていた。ただ、それはそいつの出来の悪い脳味噌がそうしたんじゃなくて、ごく自然に自分の身を守るため、コミュニティで生き残るためにしたのだろう。





*             *              *





俺は別に障がい者を恐ろしいとは思わない。俺が学んだのはコミュニティの恐ろしさだ。

『《無意識》に参加し、《無自覚》にカーストに所属し、《当たり前》に他を排除』する。自分の気付かぬうちに意識が統制されて、養分になる。そうして手遅れになって行き、そのコミュニティに生き血啜られながら一生縛られるんだ。


無論コミュニティは他にも様々な力を保持している。それほど集団というものが強力であるのだから、新興宗教に利用されるのも頷けるがな。



「そんな経験してたんですね。てっきり私、中二の子がダメージジーンズ履きたがるように、わざわざ傷付けたんだと思ってたっす」



ダメージメガネ聞くか!?…あの後もこうしてこのメガネを付けているのはな、戒めでもあるんだ。俺は心霊系は信じない達だが、物に念や記憶が残るってのはマジなのかもしれない。






その証拠に今でもハッキリ覚えている。






それにこのレンズを透して視れば、世界がよく見える。

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