ぼくと夜

五味千里

僕と夜

 夜が、怖い。

 空に浮かぶ真っ暗な顔がぼくを覗かせる。彼は物を言わないけれど、静かにぼくの心の弱いところを悪戯になじってくる。

 だからぼくは嫌になって、もうやめてって、毛布に逃げ込むんだ。そうするとだんだん温もりが僕の身体を抱きしめてくれる。おでこにキスして、頭を撫でてくれる。ぼくはちょっぴり嬉しくなって、瞼を閉じて夜にサヨナラを言う。夜は黙って頷くだけ。


 だけど、今日は違う。お母さんが毛布を取り上げちゃったから、ぼく一人。寂しいけど、ぼく一人。


 ぼくは悲しくなって一人で泣いていたら、空に浮かぶ白い黒子が目について、勇気を出して話しかけた。


 ぼくは夜に色んなことを話した。

 お母さんがあまり帰ってこないこと。それがみんなと違うこと。明日の遠足のこと。

 今日の彼は少し優しくて、僕をいじめないで聞いてくれる。


「あのね、ぼくね、ぼくだけね、明日はコンビニの弁当なの。

お母さんは作ってくれないの。

それできっと、みんなに笑われるの。

ぼくは、ほんのちょっと、明日が嫌なの」


 俯いて呟いたぼくに、夜はごおおっと音を立ててきた。ぼくは驚いて顔を上げると、彼は空の隅っこに追いやられてて、そのかわりに白い太陽が大きな顔して待っていた。

 あれは、サヨナラだったのかな。

 

 眠った夜にぼくもサヨナラを返して、階段を下るとテーブルの上に弁当が一つ。夜の口は大きいから、寝言がお母さんにも届いたみたい。

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ぼくと夜 五味千里 @chiri53

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