8.分岐点

 マイクとジャックに担がれて、自宅へ到着したユーリーは自室に寝かされた。


 ユーリの母親ナタリアはリビングでマイクからユーリが倒れた時の状況説明を受けていた。


 マイクは自分の目撃した時の状況をこと細かく説明した、その時感じたユーリの異常性の正体を尋ねた。


 「ナタリアさん、ユーリのあれに心当たりがあるんです。今の話しを聞いて、あなたも同じことを思い浮かべてるはずですよね?」


 「ええ……」


 返事にため息を交えてしまうとは、それの正体はあまり良くないものであることを証明していた。


 「ジョージと一緒ね、私たちが彼と共に行動をし始めた時と……」


 「そうですね」


 重苦しい空気を、二人は断ち切れずにいた。


 しかしこのままではダメだとナタリアは思い、言葉を発して重苦しい雰囲気を断ち切ろうとした。


 「どうしたら、いいんですかね……」


 「そうですね……あの時はどうしたんですか?」


 「あの時は確か」


 ナタリアはユーリの異変と似たようなことを思い出そうと努力していた。


 しかし何かの異変が起きていた。


 ズズズズズズズズッ


 その重苦しさを嘲笑うかの様に不気味な音を鳴り続けている。


 もしくは何かの、警告であったり。


 「うおっと……」


 マイクはテーブル越しに立っていたのだが、突然の揺れで思わずバランスを崩して椅子に座り込んでしまった。


 ガシャンッ


 二人の間にあるテーブルの上に置いてあったマグカップが一つ、突然と地面へ落ちていった。


 「あら、急にどうしてかしら?」


 不思議そうに首を傾げながら、ナタリアはマグカップの破片を集めようと、壁に立てかけてあった箒とチリトリを持ってこようと席を立った。


 しかしマイクは突然大声をあげる。


 「待て、ナタリア!動くなッ」


 「え?」


***

 「……ん? なんだここは」


 目を覚ました俺は起き上がると、そこにはどこを見ても虚無を感じる様な空間だった。


 四面に存在する壁や天井が存在するその空間は白一色で染められていた。


 しかし違和感をとても感じる空間だった。


 「なんだ? これ」


 手の届くほど近くにあると思った壁が、伸ばした手がそれに触れることは叶わなかった。


 「どこだここ? 夢……なのか?」


 あまりに異常な現象が起きて、俺はそう呟かずにはいられなかった。


 あるかどうか分からない出口を求めて俺は立ち上がって歩いた。


 どれほど歩いても、際限のない様に思えるほど膨大な部屋だ。


 ただただ歩き続けていると、遂に見えて来たのは、鎖で繋がれた一人の男。


 封印されしエ〇〇ディアごっこでもしてるのだろうか?


 とりあえずその男に声をかけてみた。


 「なぁ、あんた聞こえるか?」


 俺の声を聞いて初めてその男は反応を起こして、ゆっくりと目を開けた。


 『やぁ、君は誰かな?』


 何故かその男の声はとても反響していた。


 「俺はユーリ、あんたは?」


 『そういうことを聞いてるんじゃないんだ』


 両手は鎖で繋がっているため、頭を抱えるといった仕草はできなかったが、やれやれと代わりに頭を振っていた。


 『まぁ、いいや。覗かせてもらうよ』


 突然と大きく見開いた目は、青かった眼球が赤く光り輝き、不思議な感覚に襲われて思わず俺は尻もちをついた。


 鎖で繋がれた男は一人で楽しそうに『そうかそうか』と呟き、自分の顔を上げて俺の方へ初めてしっかりと顔を合わせて話した。


 『君の質問に答えてなかったね、僕はね……君だよ』


 「へ?」


 意味不明な答えに、思わずまぬけた返答をしてしまった。


 『正確には、君が失敗した場合に辿る結末が僕だね』


 相変わらず何を言っているのか理解出来なかった。失敗? なんの失敗だ。それに結末ってなんだよ。


 まるで彼が生きた道を俺も歩んでいくみたいな決定事項的な印象を受けた。


 『本当なら僕は君とこのように何千回と顔を合わせているはずなんだけど、君はそれを覚えているはずだ』


 「ッ?!」


 一瞬なにを話しているのか分からなかったが、その違和感の正体を俺はやっと理解した。


 『それだよ、君の今考えた答えは正解だ。君が僕を知らないのと、何を言っているのか理解出来ない違和感の正体は君が……』


 「転生したから……」


 『そう!何故君が彼の肉体に転生したのかは知らないけど、お陰で僕らの計画は大きく破綻。ここでは覚醒してなきゃいけないはずなんだけど、今の君は覚醒どころか、彼の産まれたての時と比べるととても弱い』


 突然弱いとはっきり言われて、ここ数年の頑張りをバカにされているようで思わず俺はムカッとなり反論しようとした。


 「よ、よわくなんkッ」


 『弱いさ、確かに君は頑張って来た、人間相手で戦うならまだまだ新米レベルなんだけど、僕らの敵と戦うにはあまりにも弱すぎる』


 目の前の封印されしゴッコをしている男はまたため息を吐いた。


 『本当のどうすんの? 君が覚醒してなきゃみんな救えないよ?』


 「それは一体どういういm……」


 急に俺の視界は暗転して、意識を手放していった。


***


 「……て!……ーリ、……てよッ。起きてユーリッ!」


 俺を呼ぶ声と大きく揺さぶられる気持ち悪さから、俺はゆっくりと目を覚ました。


 「ん……? どうしたの姉貴」


 未だに思い瞼を擦りながらゆっくりと目を開けた。


 「あんたずっと夢でうなされていたから、なんか辛そうだったから起こしたのよ」


「夢……?」


 俺はさっきまで変な夢を見ていたなとても思い出していた……あれ? どんな夢を見ていたんだっけ?


 ていうか夢を見ていたのか? ダメだ、何も思い出せない。


 頭を抱えて考えている俺を見て姉貴は心配して体調を訪ねた。


 「大丈夫? 結構な汗をかいてるけど……ちょっとまっててね。」


 姉貴はそういう時小走りしながら部屋を出て行くと、戻って来た時には水を入れたタライとタオルを持ってきて身体を拭いてくれた。


 それは妙に気持ちよくて、俺はまた意識を手放した。


 「あれ? ユーリ、ちょっとどうしちゃったのよ。」


 姉貴の声が……聞こえる。しかし、なんか……遠く、なっ……て。

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【旧約】ザ・ラスト・ウィザード・オブ・センチュリー @KOIMI

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