7.8歳②

 俺は剣を構えた、丁度今から遡って数秒前に獲物になる子イノシシをさがいていたはずが、いつのまにか俺は親イノシシを探しに行ってたんだ?


 目の前には親のイノシシがある。3メートルを越えた、4メートルの個体がある。


 しかし途中でみんなと逸れてしまった。どうしようか。


 そう悩んでいると親イノシシは「ぐごごッ」と威嚇をして来た。その目に写るは憎悪、もしかしてさっきジャックが殺した奴の母親なのかな?


 めっちゃ興奮して「絶対殺してやる!」といったいった感情が汲み取れる。相手は臨戦体制だ。


 クソったれがぁ!!


 上等だゴラ!やったるぞおお!!


 俺は自分を鼓舞して雄叫びを上げて今度はコッチから威嚇した。


 それにつられたのか、興奮状態に陥った親イノシシは思いっきり突進して来た。しかし俺にはジャックの様な腕力とがっしりした肉体もなければ、そもそもこいつとは流石に体格差がありすぎる。


 魔力は増やしているが、使える魔法はファイアーボールだけだ、威力はとても弱いため4メートル超えのイノシシには効かない。


 しかし俺は逃げられなかった、マイクおじさんが言っていたが森で獣に背中を見せるという事は死を意味する。


 その無防備な背中へもう突進して一撃必殺をするみたいだ。


 どうすれば? と俺は焦っていた。


 その時、自分の視界が黒く覆われた。どのくらいの時間だろうか、しばらく経つと目の前にある光景は知らないものとなっていた。


 景色だけではない、まるで自分が別のところへいる様な感覚な陥った。大量の騎馬とそれに乗る騎士、戦場を駆け抜ける轟音、騎士たちの雄叫び、魔法の詠唱。


 そして、伝わってくる大地の振動。


 困惑していると横から急に肩を叩かれた。


 『いいか? 決して死ぬんじゃないぞ!私はお前に言わなければならないことがあるからな!』


 隣では青色のローブにウイッチハット、紫の髪をした、頬はほんのり赤みがかかってる女性にそう言われたとき


 あれ? なんで俺急に戦場で知らないお姉さんにプロポーズ的なことをされているんだ?


 しかし予想外の事が起きる。


 『ああ、約束しよう。決して君一人を置いて死んでいったりはしない。』


 あらやだ、自分ったらこんな事が言えたの?!カッコ良すぎる。いや待てよ? これは俺の声じゃないな、あまりにもイケボすぎるということに気づいてしまった。


 すると自分の両手が自分の意思と反して勝手に動き出す。


 目の前の女性の頬を両手で包み込んでなんと!? 自分の顔に手繰り寄せた。そして唇にほんのり感じる柔らかい感触と甘酸っぱい味……はしなかった。


 なんで? キスの感覚がないだと?! クソ!!


 なんなんだこのモヤモヤした感覚は!くっそぉ……お預け食らった感じがした。


 キスしてぇ。


 目の目の美女から顔を離すと自分の右手が腰に掲げていた剣を鞘から抜き取った。


 『アクセラレーション』


 自分ではない声がそう呟き、次の瞬間目の前の景色がスローモーションとなった。


 一人、そしてまた一人と敵を屠っていくのが見える。切られたと自覚もしないうちに、敵は意識を失っていくだろう。


 いや違うな、これは人を切っているのではない。解体をしている。殺すなら首を落としたり、大量失血するよう動脈を切ればいいだろう。


 しかし実際にやっていることは、例えば真っ二つに切った人体をさらに細かく統一された大きさの肉塊へと切り刻んでいる。


 その暁には、恐れをなして逃げてゆく敵の姿が見えた。


 こちらへ走ってくるさっきの美女を俺は受け止めたっ、感触ではなく思いっきりタックルされた感覚だった。


 「ゴフッ、グハッ……」


 思わず手で口を押さえれ咳き込んでしまった。


 その手を見たら血の色だった。いや、自分の血だ。


 なんなんださっきのはいきなり? とりあえずこいつをなんとかしないと!


***


 体長が4メートルを超えるいのしいは少年と対峙していた。 


 少し前まで相手を気にすることなく攻撃をしていたイノシシだったが、急に思わず目の前の少年から感じた圧力に思わずたじろいだ。


 「ふごぉ、ふごおおお!!」


 不快そうな鳴き声を少年は気にせず自分の行動を始めた。


 『アクセラレーション』


 そう呟くと、少年は急加速をする。


 目に止まらぬ速さでイノシシを解体していく少年。気づけばイノシシは均等な大きさの肉塊と化していた。


 少年は俯きながら肩を震わせて……笑っていた。


 『くく……くくくく……アハハハハハッ』


 ついには堪えきれなくなり、思いっきり天を仰いで大笑いを始めた。


 しかし逸れてしまったユーリを捜索していたマイクとジャックは、たまたまその時ユーリを発見したがその異様な光景に呆然としていた。


 細かくなった肉塊、血まみれのユーリ、天を仰いで大笑いする様。全てが異常だ。初めて生き物を殺すはずのユーリが、生き物を殺して大笑いしているその様。


 普段のどこか抜けたような、おっとりしていたユーリとは雰囲気があまりにも違った。


 「ユーリ……? まさかそれはッ」


 その光景を見て何かを連想したマイクだが、次の瞬間突然エネルギー切れを起こしたかの様に地面へ倒れ込んだ。


 「なっ、お、おい!大丈夫かッ? ユーリ!返事をしろ!ユーリッ!?」

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