6.8歳①

 あれから5年が過ぎた、特に変わったことのない生活を送っていた。


 相変わらず姉貴は俺にベタベタしてくるし、マリアちゃんもそれに対抗するかの様に姉貴以上にベタベタしてくる。


 2人とも肉付きが良くなったから、抱きつかれるとなんだか変な気分になりそうだ。


 マリアちゃんは村の少年の憧れということもあり、そんな俺を快く思わない為他に村の友達はあんまり出来なかった。


 しかし充実した生活を送っている為、俺もあんまり困らなかった。


 そうそう、ちょっと変わった事はあった、突然村を訪れた一行がいて、ヨシュアと会い喜んでいた。


 ヨシュアも嬉しそうだった。大して世話などしていないもののヨシュアに礼を言われた時はなんだかむず痒かったっけ。


 まぁそんな感じだ。8歳になった男児は村では大人に同行して狩を習う事になってる。


 連れて行ってくれる大人というのはマイクおじさんで、ついて行く子供たちには俺と他に同い年の少年が2人いた。


 1人はヤンチャなガキ大将で村で有名なジャック、かなりカラダが大きく腕力もある。もう1人はス○夫みたいなポジションのジェームズ。


 ジェームズの方はかなり細くて、見た感じ力系の仕事には向かない。ましてや狩など向いてなさそうだが、しかし魔法が使える世界だ。


 そう言った障害は簡単に乗り越えられる。そのため身体を鍛えるといったことは不要なのだが、引き締まった身体はモテるという風習はこの世界にもあるらしい。


 そのため大人にはマッチョな人が多いのだ。


***


 森の中程へ侵入した俺たちは、早速そこで獲物を一匹見つけた。


 犬くらいの大きさのイノシシだ。この世ではこれはまだ子供のサイズらしい。成体になると3メートルを超える大きさが平均的な大きさらしい。


 本来なら子供は未来でまた狩をするときのために見逃すのだが、それらを狩れる例外が存在する。それはつまり、今の様に狩を始めて行う子供達の体のいい練習相手だ。


 「さぁ、だれが最初に戦う?」


 マイクおじさんがそう聞いてきた。するとガキ大将のジャックが勢いよく手を挙げた。


 「はい!俺がやります!」


 「じゃあ君から戦っていこうか。」


 マイクおじさんに小さめの剣を渡されたジャックは俺の方をキッと睨んだ。


 「見とけよ、俺の方がお前より強いところを、お前なんかにマリアさんのはんりょは務まらないぞ!」


 「あぁ、そう頑張ってね?」


 「ふんっ」


 何故か対抗心を燃やされていた。あれか、彼はマリアちゃんといつも仲良くいる俺を見て気に食わないのか。


 しかし他の子供と違って陰湿な嫌がらせを彼はしない。


 例えば俺が一人で歩いてる時、石を投げてくるなど。


 それを起きたのはヨシュアが村をさってからだ。ターゲットが無くなったため次にヨシュアを助けてあげたり、マリアちゃんと仲がいいからそれの妬みとかで。


 ジャックは彼らのまとめのリーダーなのだが、しかしそれをしてるのを見つけると止めていた。


 一瞬に遊ぼうなどと言って遠ざけたりする、実は根がかなり優しい。ヨシュアをいじめてたのを見つけた時もそうだった。


 だが俺がマリアちゃんと仲が良いのは彼も気に食わないみたいだ。


 正直言って好感の持てる子供だ。


 ちゃんとした自分の意思がある、つまらない大人たちの傀儡になっていない。


 「ぐるるるる……」


 低い唸り声で子イノシシがジャックに対して身構えた。右手にはメリケンサックが装備されていた。


 このポーズを取ったイノシシとは臨戦態勢にあるという、それはどちかが死ぬまで終わらない。例えば人が負けても追いかけ、人が優勢でもイノシシは自分が勝つまで挑むことをやめない。


 その勇敢なる姿勢を讃えて世間ではイノシシを挑戦者チャレンジャーと呼び、それは遂に軍で戦果を大きく挙げたものに与える勲章に付く紋章となった。


 「さぁ、来いッ」


 ジャックがそう叫んだのが開戦の合図と捉えたのか、子イノシシはジャックへ頭から突っ込んだ。


 ジャックは子イノシシの突進を身体で受け止めた。


 「くっ、ウウッ」


 しかし幾ら子イノシシだと言っても、イノシシの突進力は並の威力ではない。ガタイの良いジャックといえど、8歳の子供が受け止めることが出来るのかどうか……。


 「このッ、舐めるなあああッ!!」


 そう言ってジャックは足に力を入れて、履いてた長ズボンの脹脛ふくらはぎ部分が突然的な筋肉の膨張によって破かれた。


 「ふんんん、ぬぅッ?!」


 大きな砂煙を起こしてやっとジャックは子イノシシの突進を止めた。


 「死ね!豚野郎がッ!?」


 そんな汚い言葉を吐きながら、ジャックを右手にはめたメリケンサックをドスッドスッと子イノシシに拳を振るいかける。


 「フゴッ、ブゴゴゴゴゴッ」


 メルケンサックで殴られた子イノシシはとても苦しそうな声を出して悶えた。


 そして痛みに悶絶するその声が止んで初めてジャックは子イノシシを殴る手を止めた。


 子イノシシはそこまま地面へとゆっくり倒れてゆく。


 「ごめん、ごめんよぉ……しかしお前のおかげで、俺は大人への階段を登れたんだ。許してくれとは言わない、せめてあの世で天国へ逝ってくれ」


 マイクおじさんは初めて奪ってしまった命へ懺悔をしていたジャックの肩に手を置いた。


 「さぁ、楽にさせてやれ……」


 「はいッ……」


 ジャックはマイクおじさんから受け取った小刀で死にかけの子イノシシの首を切り取った。


 立ち上がったジャックは俺の方を見てフッ、と鼻で笑ってきた。


 「俺はお前より先に大人になれたぜ……さぁ、お前に出来るかな?」


 嫌味らしく言ってくるが、根は優しいと知っていれば何を言われても別にムッと気が立ったりもしなかった。


 もし僕が彼のことを知らなかったら、ね。

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