第32話 エピローグ
「父ちゃん! 河原で人が倒れてるよ! ほら、あそこ」
「ん? どれ、どこに?」
「ほらあそこだよ、見えるだろ? 二人倒れてるよ」
飛脚業を営む御浦は、幼い息子の指す方向の草むらの影に倒れているらしい人の姿を発見した。
二人の男女、一人は初老の男、もう一人は自分の息子よりもやや年上らしい幼女が、御浦が見たこともないものを身につけたまま仰向けに倒れていた。
その初老の男の身に着けている鎧が、太陽の光を反射し美しく銀色に輝いてはいたが、明らかに血と思える黒い液体の痕がところどころに付着していた。
幼女は軽装ではあったが、もちろん御浦の知らない服装をしており、その顔は日の本の国の人間の顔ではあるにもかかわらず、御浦がこの世で初めて見たといえるほどの綺麗な顔立ちをしていた。
「龍(たつ)吉、娘の方が生きてるかどうか確かめてみろ」
「うん」
龍(たつ)吉と呼ばれた御浦の息子は、娘の心臓の鼓動と呼吸の気配を確かめると、
「生きてるよ、父ちゃん!この姉ちゃん」
と答えた。
「こっちの男も生きているが・・・・・・ この格好でこのまま放っておいたら、えれえことになりそうだ」
倒れている二人の服装、装備を西洋の国のものと判断した御浦は急いで自分の長屋に人を呼んで来るように息子を走らせた。
時は西暦1860年。幕末時代の日の本の国。
まもなく激動の時を迎える江戸の町の一角に、爺こと宮下と舞姫の二人はこつ然とその姿を現したのだった。
サムライウーマン 壬生狼 @miburo
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