斬撃の奏で
なぜ?
どうしてこんなことをするのか?
ソレッラはアルトの行いを疑問に思った。
リュナの不思議な力によって、数人の重傷者は出たものの、多くの命が守られた。そういえば噂で聞いたことがある。特異な力を用いてこの世界の謎を探求する集団が存在するということを。リュナも何かを探してこの町へ来たと言っていたのではなかったか?
姉を殺害され、自分は不様にも捕まり、助けられておきながらただ見ていることしかできなかった。ソレッラはその歯痒さを行動力に変換した。もうこれ以上の犠牲を出すわけにはいかない。アルトを許すわけにはいかない。
ソレッラは時計台に向かって駆け出した。
「ソレッラ!」
彼女の名を呼ぶリュナの声を背中で聞いた。
そういえば彼に名前を呼ばれたのは初めてかもしれない。そんなことを微かに思った。
アルトは初め、何が起こったのかわからなかった。
下のほうで、緑色のものが広がり、爆弾を包み込んだ。何人か金属の破片を体に浴びたようだが、もちろんアルトが望んだ結果ではない。
自分の企みが阻止されたことを知ったアルトが次に持った感情は、怒りだった。
自分が描いていたアートにペンキを塗りつけられ、台無しにされたような。
手に持った漆黒の石が、彼の憎悪を増幅させる。
全てを壊してしまいたい。
アルトはそんな衝動に駆られた。
階下から階段を駆け上がってくる足音が聴こえる。
アルトは振り返って来訪者を待った。
展望台に姿を現したのは、家に捕らえていたはずのソレッラだった。
ソレッラは息を弾ませながらも、アルトの姿を捉えると強い意思のこもったような目を向けた。
嫌な目つきだ。その目はアルトの気に障る。
「やあソレッラ、こんばんは。どうやってあそこから逃げ出したんだい?」
ソレッラは答えるかわりに、懐から鋭いナイフを取り出した。それを両手で持ち、アルトに向かって構えた。
「こらこら。そんな野蛮なものを。お嫁に行けなくなるぞ」
「私はあなたを許さない」
彼女のその確かな殺意は、アルトの内側から更なる衝動を呼び起こす。
アルトはソレッラに一歩近づいた。
「お前か?」
重低音のその声は、これまでのアルトの柔らかな響きとは違っていた。
ソレッラが驚きに目を見開いた。
「お前が僕の邪魔をしたのか?」
ソレッラは一歩後ずさった。ナイフを握り締める手が震え出す。ナイフを構えているというより、ナイフに支えられているというような。
アルトは手にしていた漆黒の石を首元から服の中へ入れた。石は胸の辺りで収まる。石が触れている箇所から、体に熱が広がっていく。
ソレッラは勇敢だった。アルトの迫力に気圧されながらも、プレッシャーに押し潰される前に自分から動き出した。ナイフをアルトの胸の辺りに向かって突き出してくる。しかしアルトは難なくかわし、勢い余ったソレッラの背後に回って頭蓋を鷲掴みにした。恐怖の表情を浮かべるソレッラの顔を眺めながら、壁に向かって放り投げた。ソレッラは壁に衝突し、床に倒れてぐったりとする。ナイフが回転しながら床を滑っていった。ソレッラのこめかみ辺りから血が流れ出す。
アルトはソレッラに近づいていった。ソレッラは薄目を開けながら、どうにか体を動かそうとしている。タフな女だ。だけどそのほうが、いたぶり甲斐がある。
「よう、兄弟」
突然背後のほうから声が聞こえ、アルトは振り返った。
階段から出たところに、全身黒尽くめの人間が立っている。そしてその人間の頭に何かがのっていた。
「会いたかったぜ」
その帽子は不気味な笑みを浮かべていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます