第2話 少女たちのシナリオ

俺は仕事の休みで久々に映画を見にやってきた。

他にも色々な買い出しがあるから映画の前に買い物して回ろう。最近はマイバックに物を入れるようになって荷物が一つにまとめられるから楽チンだな。


上映までまだ時間があるから本屋で立ち読みして待っていようかな。


あ〜このマンガ気になってたんだよな。最近のマンガコーナーにはお試し本があるから買う前にどんなものか読めるからいいよね。


俺は前から気になっていたマンガの試し読みを始めた。

平日ということもあって、あまりお客さんはいない。お陰で人目をあまり気にせずゆっくりマンガが読める。


ふと見ると、俺の側を制服姿の女子高生が何度も通っていく。彼女は特に何かを買うつもりもなく、ただウロウロとそして、キョロキョロ周りを見ながら歩いている。


まぁ、何か目当ての物が見つからないから何度も同じ棚を見て回るのはあることだからね。


ん?でも今日は平日の昼間、考えたら学生は学校に行っている時間。ちょっとおかしいなと思いながらも、もしかしたら学校が休みなんだなと納得してそのまま立ち読みを続けた。

立ち読みを続けると少し離れた所に彼女の姿が見えた。その場にずっと立ち尽くし、もしかしたら欲しい本が見つかったのかな。


彼女はそのまま雑誌を立ち読みし始めたので気にすることなく、俺も自分のマンガの立ち読みに集中した。


一冊の本を読み終えて、別の本を立ち読みしようと手に取ったとき、さっきの彼女が俺の側まで来ていた。今度はマンガを探しに来たのかな?そう考えていると彼女がチラッと俺の方を見てきたので目が合った。


俺は目が合うと気まずいと思い、すぐに目をそらした。彼女は特に気にすることもなく本棚を見続けていた。

俺は何かを感じ取ったのか横目で彼女の方をチラリと見ると…

彼女は持っていた雑誌で隠しながら何冊かのマンガ本を自分のスクールバッグに入れてしまった。

俺は万引きを目撃してしまった、目の前で起きた犯罪に衝撃を受けてしまった。

彼女は誰にも見られていないと思ったのかそのまま店の出口へと歩いていった。


ここで俺は見逃していいのか…いや、彼女にはしっかり反省させるのが大人として役割だ。

俺は読んでいるマンガを元に戻し、出ていく彼女の後を追った。もしこのままレジに向かって支払いをしてくれたらと思ったが、彼女はそのまま出口に向かって歩を止めることはなかった。



出口を一歩出たところで俺は後ろからそっと彼女に声をかけた。

「あの、ちょっと。さっき、本カバンに入れたよね?」

彼女は突然俺に声をかけられてビックリした様子だったが、すぐに俺の方を振り返りうつむきながら


「ゴメンなさい」

と小さな声でつぶやいた。

彼女のそんな反省している姿を見て俺は思った。


『私、本当はこんなことしたくないの…でも、こうしなきゃ私…わたし』


大丈夫だよ、言いたくないんなら無理して言わなくても。


『ううん、いいの。私、命令されてるの…マンガを取ってこいって』


そうか、彼女は学校の女子グループに命令されて、やりたくもない万引きをさせられてるんだな。

あの時俺の方をチラリと見たのは俺に助けを求めたんだ、こうやって出逢えたのは運命だ。任せろ、俺がちゃんと守ってあげるよ。

でもね、やってしまったことはちゃんと謝らなきゃいけないよ?大丈夫、俺が一緒に謝りに行ってあげるよ、心配しないで。

そのグループから俺がちゃんと守ってあげるから。


『ありがとう。あの時、あなたに助けを求めてよかった。あなたは私の救世主』


彼女はそっと俺の腕に手を回してギュッと組んできた。

そっか、1人じゃ不安だから俺も一緒に来て欲しいってことね。大丈夫だよ、彼氏として一緒に謝りに行ってあげるよ。


『ありがとう私の救世主さま』



俺は腕を組まれた状態のまま、彼女に一言伝えた。

「さあ、一緒に謝りに行こう」


そう彼女に伝えると、うつ向いていた彼女が顔を上げて表情が一気に険しくなって

「キャー!!何なんですか!?」


えっ!?えっ!?どういうこと!?俺は君の救世主として一緒に謝りに行こうと思って…


いきなりのことでさすがに俺は動揺していると、彼女の声を聞いて周りに人が集まってきた。

「いや、あの俺は…彼女と一緒に謝りに」


あたふたしながら周りの人に説明をしていると店員らしき人が騒ぎを聞き付けてやってきた。

すると一人の女子高生が

「私も見てました!この人がカバンに本を入れるの見てました、そしたら急にこの子の手握って……」

別の子も俺の側までやってきて「この人あっちで……その、エッチな本をカバンに入れているのを見ました」


な、何を言ってるんだこの子たちは。

「お客様どうされましたか?」

俺は店員さんに事情を説明しようとすると彼女が泣きながら


「この人の万引きを注意しようと思ったらいきなり手を掴まれて…それで、それで、」


えっ!?えっ!?俺が万引き?それは君の方だろ?何で俺が万引きしてる犯人なんだ?


「お客様…ちょっとこちらへ。あと、そのかばんに入っている商品のことでお話が」


いや、商品って何のことだ?俺はただ立ち読みしてただけだし。まぁ、いいや、見てもらえたら分かる。

俺はやましいことは何もないとカバンを広げて見せると…

見たことのないエッチな本が何冊か入っていた。


「な、何だこれ!!俺はこんなもの入れてない!」

店員さんと取った、取っていないの押し問答を繰り返していると、ふと彼女のことを思い出し、そのことを伝えようと辺りを見回すと彼女は友達数人と走って店から出て行っていた。


その後、俺を万引き犯呼ばわりした彼女たちが俺の持っているマイバックに何かを入れるのを目撃した人がいて、その証言と俺が見ていた状況を一からちゃんと説明して、信じてもらえたが彼女たちはもういなくなっていた。

俺は万引き犯にさせられてこっちに注意を向けて、自分達は自分達の物はちゃんと取って逃げた。

元々そういうシナリオで動いていたのかもしれない。

彼女たちのシナリオにやられた。


テーマソング

ChicowithHoneyWorks   「アイのシナリオ」

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