第3話 Epilogue

 結局のところ、籍は繭子と入れて夢子と三人での同居生活となった。

 一先ずは繭子たちが住んでいたちょっと広めのアパートに俺が移り住んで、落ち着いた辺りでその後に三人の新居を考えようという話にした。

 卒論も終わって落ち着いたし、新入生ガイダンスもつつがなく終わりを迎えようとしている。まだ先の話だとは思ったけど、逸る気持ちもあってか住宅情報をネットで探し始めた。沿線などを絞り込んでいくところで俺はふと疑問に思う。


「そういえば、お前らの就職先は?」


 三人で住むんだし、アイツらも就職してるって話だから三人にとって都合のいい場所に住みたい。通勤時間的にも、交通の便としてもだ。

 すると、二人は不思議そうな顔で俺の事を見上げてきた。


「何を言ってるの?」

「就職先は宏太も知ってるよ?」

「え?」


 意味が分からず困惑していると、二人が俺の両隣に回り込んで、それぞれの腕を引っ張る。


「アンタの嫁よ」

「宏太のお嫁さん」

「ちょっ!?」


 二方向から頬に押し当てられた柔らかい感触に一気に顔が熱くなる。


「え?そういう意味だったの!?」

「当たり前じゃない」

「ニブチン」

「これ気付ける奴いるのかなぁ!?」


 いや、ヤオ兄なら気づくかもしれない。あの気遣いお化けならできる。


「ってか、お嫁さんって就職先なのか?」

「そうよ。暫定的にアタシがアンタの嫁として家事全般を担当するわ」

「わたしはバイトをして、子供の養育費などを貯金する」

「いや、金は俺が稼ぐから」


 ちょっとした男のプライドで口を挟むと、二人に睨まれる。


「何かあった時用に貯蓄はあった方が良いでしょう?それとも、指輪を買って貯金がほぼ底を尽きたアンタに何ができるの?」

「見栄張ってまぁまぁ高いの買うからこうなる」


 二人とも、大事そうに指輪を撫でながら非難してくる。嬉しいとはっきり態度に出ているところが二人らしい。


「安心なさい。アンタは何も考えずに精一杯社会の歯車になりなさい」

「家の中はわたしたちが回す。宏太は憩いを求めてこの家に戻ってくる」

「逃しはしないわよ」

「十四年近くかけたんだから」

「ん?」


 二人の掛け合いを聞いて、俺の頭にはてなマークが浮かぶ。


「十四年?」


 それって俺とお前らが出会ったくらいの時期じゃないか?


「昔っから言ってるでしょう?アタシはね。欲しいモノはどんな手段を用いても奪うの」

「わたしはね。心地よい夢に溺れさせて、人の心の奪うの」


 一瞬、二人の発言に背筋が凍り付くような思いをする。

 だけど、俺は頭の中にふと浮かんだ言葉や想いをドカッとゴミ箱へ放り込んだ。


 多分、俺は今までがそうだったように、これからもこの二人に手綱を引かれ続けるんだろう。情けない話かもしれないけど、それも良いなって思えたから。


「それでも俺がお前らを幸せにするんだからな!」


 精一杯に叫んだその言葉はほとんどが強がりだったけど、二人が嬉しそうに抱き着いて来たので良かった事にする。

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