急-解 ダイスを振るだけが楽しみじゃない

 冒険者になってからの日々が脳裏に蘇る。

 

 ……!


 結論は出た。


「KP、賽子ダイスは振らなくていい」

[……そう]


 盾を持ち手が下になるよう置く。

 盾を水面みなもに見立て、魚を獲る要領で槍先……ではなく石突で撃ち抜く。


 何度も。

 

 何度も。


 この盾は衝撃を熱へと換える。

 音も立てず——赤く、紅く染まっていく。

 真夏の暑い日など比にならない熱量を感じるが、まだだ……まだ足りない。


 やがて盾は紅を超えて白い光を帯び始める。

 肌が焼けようが構うものか。

 もっと、もっと熱く!


 盾の周囲の空間が歪んで見えた——その時、洞窟内に硬質な衝撃音が鳴り響く。


[盾の熱変換が臨界点へ到達した音だね]


 準備は整った。

 白熱した盾にの返しを引っ掛け、投げ飛ばす。

 旗で帽子を飛ばすのと変わらない。

 狙い通り飛ばせる。



 灼熱を宿す丸盾は地面を焼き、赤熱の軌跡を刻みながら激戦を繰り広げる敵と師匠の周囲を転がる。

 螺旋の軌跡は洞窟を照らし、空気を焼いて洞窟内の温度を急速に上げていく。

 奴が爬虫類系の魔物ならに弱いはず。

 紛れ込むモノカムリオンが悶え苦しみ暴れ出し、師匠せんせいが距離を取ったのが見えた。

 これでダメ押し! 


「喰らえ!」


 溶けた鋼を纏う槍を全力で投げつける。

 溶けかけの石突は敵の胸元へ吸い込まれるように飛んで行き、敵を焼く。


 絶叫を上げる魔物と目が合う。

 次の瞬間——胸を撃つ衝撃に吹っ飛ばされた。


 師匠が敵に止め刺す音が聞こえる。

 良かった、師匠は無事だ。


 やられた胸が燃える様に熱い……しまった子供達との約束守れそうにねぇや。

[そうだね。そのままだと、命はないよ]

 この脳裏に響く声ともお別れ……か。

[死ぬ気かい?]


「おい、大丈夫かピエール!」


 駆け寄ってくる師匠の足跡が聞こえる。

 そうだな……最期に師匠へお礼を……。


[あ、そうじゃなくて……]


「おま……馬鹿! 燃えてんぞ胸当て!」

 

 目を開くと燃える皮鎧の胸当てが見える。

 道理で熱い……って。


あっっっつい!」


 飛び起きて装備を外す。

 身体を調べるが怪我は無い。強いて言えば焼けて赤くなった肌くらいか。

 不思議に思って燃える胸当ての方見ると、赤い石が埋め込まれているのが見える。ちょうど衝撃を受けた辺りに。火元も赤い石だ。


「マジでおまじいが効いた」


 童女のお呪いの正体は盾の端材の石ころか。

 子供達に秘密基地で見せてもらったあの石だ。


「あの嬢ちゃんはお前の命の恩人だな。ほれ、火傷に効く軟膏だ。赤くなった所に塗っとけ」

「これすごい効くぞ、ヒリヒリが治った。ところでもし救援が来たらどんな冒険者が来たんかな」


「フラークの姉貴だ。間違いなく」

「師匠の姉? ちょっと見てみたい」


「見たいも何も世話になってるじゃねぇか」

「え?」


「受付嬢だよ。組合で洗礼の担当もしてる」


 えぇ……もし受付のお姉さんと上手くいったら、師匠が義弟に? この厳つい顔に「お義兄ちゃん」とか呼ばれちゃうのか……。

 討伐依頼と共に俺の恋は終わりを告げた。

[あれ冗談じゃなかったんだ……]




 その後は死体の処理をして、村で一泊。

 今は荷車を引いて帰還中だ。荷の中身は紛れ込むモノの死体と小鬼の討伐証明部位。


「そうだ、師匠」

「なんだ? 荷車の交代はしんぞ」

「俺の事、名前で呼んでない?」

「ま、もう坊主じゃねぇってこった」

「…………!」

「んだよ、ニヤけた面しやがって。もうすぐ門だ、シャキッとしろ! お出迎えに笑われんぞ?」


 視線を門の方へ向けると秘密基地の子供達が手を振っていた。

 俺も頭の上で大きく手を振って返す。


        「ただいま!」


      「「「おかえり!」」」

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TRPG由来のスキルを異世界の現地人に与えてみた件 真偽ゆらり @Silvanote

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