第6話
もう彼これ社会と離れてどれくらい経ったのだろうか。僕は自分がギリギリ生きられるだけのカロリーを、飲酒という方法で取っている。生きたい訳ではない。前にも言ったが、身体が、脳みそが、僕を生かそうとする。それが
想像して欲しいんだけど、本能の部分ではやりたい事があって、頭の中でもそれは肯定されている。だけど身体は動かない。若しくは動かしてはいけないと思ってしまう。そんな状態に陥った時、あなたならどうしますか?
答えたは簡単だよね。どうにもならない。そりゃそうだ。実行能力がないのだから。
言わば、僕はそれと葛藤しているんだ。
でもそんな事を伝えようとしたところで無駄だよね。だってあなたはそうなった事がないでしょ?そんな経験をした事ないでしょ?だから分からないのは分かる。かつては僕もそうだったから。
たまに町に出る。なんでもない普通の人々が行き交う。笑顔で談笑しながら前を向いて。僕もそうだったな。すれ違う下を向いて歩く僕みたいな人間には気付かずに。
最近気付いた事があるんだ。人間の善悪について。
僕は幼い頃、人の善悪について、ある考えに至った。善は人々の為に行動出来る事。悪は利己に走り他人に迷惑をかける事。この信念の元に僕は生きてきた。
だけど間違っていた。それは逆だった。真実は、善は自分の為に生きる人間であり、悪は他人の為に自己を犠牲にするような人間なんだって。
僕は悪だった。だからこんな仕打ちを受けてきた。仕方がない事だった。生きている資格なんて、僕には端からなかったんだろうね。全てが腑に落ちたし、納得した。他人の為に?バカバカしい。それがなんだってんだ。嫌われて当然じゃないか。そんなの誰も望んじゃいない。望んでんのは、“私の為に生きてくれる人” でしょ?
僕に今更そんな生き方をしろったった無理だ。僕は自然摂理の中、淘汰されるべき存在だったのだと想い知らされた。
家に帰った僕は、処方された睡眠薬を服用した後、剃刀で左手首を切って、水を張った浴槽に手を突っ込んだ。
やがて静かに眠気が襲ってきた。
僕は生まれ変わろう。どう生まれ変わるのかは知らない。だけど生まれ変わろう。どうせ大した人生じゃないかもしれないが、今度は自分勝手に生きてやろう。
終わり
ベートーヴェンの苦しみは天才作曲家になって難聴にならなきゃ判らない 岡上 山羊 @h1y9a7c0k1y2
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