3.ちょっと立ち寄ったファミレスで。
「やらかしたなぁ……」
俺は闇に染まりかけた街を歩きながら、そう漏らした。
朝倉先輩は気にしないでほしいと言っていたけれど、あれはさすがに無神経すぎるだろう。最後の質問も、結局はどうにもならない話に違いなかった。
大きくため息をつく。
しまったなと思いつつ、俺はファミレスに足を運んだ。
「いらっしゃいませー」
「あ、ひとりです」
「一名様、ご案内でーす!」
今日は両親の帰りが遅くなる、とのことで食費をもらっている。
千円少々なら、近所のファミレスで十分だろう。ひとりで黙々と食事をすれば、多少なりとも冷静になれるとも考えたのだ。
「それにしても、もしも、か……」
俺は席について、メニューを見ながら自分の発言を思い出した。
どうして、あんなことを言ってしまったのだろう。――いいや、分かっている。それは昨夜見た夢のせいだった。
あの惨劇の場面に出くわして。
カトレアという少女の涙を目の当たりにして。
そして、この結末をどうにかして変えたいと思った。
「夢の話だろ、っての」
――時間を巻き戻すことは、できないのに。
その事実を振り払うようにして、俺はそう自らに言い聞かせた。
メニューに改めて視線を落として、呼び出しのボタンを押す。すると客足が少ないのもあって、店員はすぐにやってきた。
「えっと、それじゃ。この――は?」
「はい、お客様。いかが――ひぇ?」
そして、店員の方へと目をやった時だった。
するとそこに立っていたのは――。
「お、おま……なんだ、その恰好!?」
「あ、明海氏!?」
――エプロンドレスを身に着けた、凪咲だった。
「ぶふっ! おま、用事があるってバイトかよ!!」
「う、うるさい! 別にいいでしょっ!?」
「喋り方が変だ!!」
「普通だよ!!」
俺は、なんとも『普通』になってしまった悪友を見て笑う。
髪も下ろして、左右の瞳の色は統一されていた。
ただの美少女が、そこにいる。
「く、くくくくくっ!」
「笑わないでよぉっ!」
普通の男なら、この可愛い生物を見て鼻の下を伸ばすだろう。
だが、あいにく俺は違った。普段のコイツが、どのようなキャラで通しているのかを知っている。だから、おかしくて仕方がないのだ。
そして凪咲の方も、思わぬ展開にしどろもどろ。
その姿がまた面白くて、ツボってしまった。
「立花さーん? どうしたんですか?」
「い、いえ! なんでもないです!!」
そうしていると、彼女はバイトの先輩と思しき女性に声をかけられていた。
しゃんと背を伸ばして、畏まった返事をする凪咲。
まぁ、これくらいにしておこう。
「いやー、それにしても」
「うー……?」
そう思って、俺は涙を拭いながら正直な感想を述べた。
「やっぱり、普通にしてれば可愛らしいんだな。凪咲は」――と。
すると、彼女の表情が固まった。
次いで小刻みに震えだし、耳まで真っ赤になっていく。そして――。
「ふみゃあああああああああああああああああああああああ!!」
店内に響き渡る声で、そう叫ぶのだった……。
Butterfly's Dream ~ボクのみる夢とキミ~ あざね @sennami0406
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