第4話ー交通事故ー
私、牧萌。今日は喫茶店がお休みなので久しぶりに花屋にでも行こうかと朝から出掛けていた。ダリアを買って来た道を後戻っていると、交差点に人集りが出来ていた。
「すみません。何かあったんですか?」
「交通事故だって運ばれていった男あれ無理だろうな。」
野次馬に話を聞きながら規制線の先に目をやるとブルーシートの隙間から赤の軽自動車が見えた。
翌日、緒方探偵事務所に行くと緒方さんは居なくて鍵は開いていた。
「不用心だな。緒方さん。」
ソファに座り待っていると事務所の固定電話が鳴った。古い電話なのでディスプレイなんてものは付いていない。鳴り止みそうもない電話に出る。
「もしもし緒方探偵事務所です。」
「小林です。って、牧さん?」
「はい、珈琲持ってきたんですけど居なくて待たせてもらってるんです。」
「そうか、じゃあ今から行くね。牧さんの珈琲も飲みたいし。」
「わかりました。」
一人で珈琲を飲みながら時計の音に耳を傾けていた。カチカチとリズミカルに刻む音に睡魔がやって来る。
「お邪魔します。まだ先生帰ってませんか?」
「は、はい!」
どのくらい経ったのか気が付いたら小林さんが来ていた。
「ごめん、寝てた?」
「少し……けど大丈夫です。でも今日はなんで電話してきたんですか?いつもアポ無しで来ているみたいですけど。」
「ちょっとね。それよりこの間の大学生殺人事件解決は出来たけど意外だったんだよ。犯人。」
「私は、被害者の彼氏の井上さんが犯人だと思ってましたけど。」
「僕もね、お金がらみの犯行だと思ったけど犯人は小野真理だったんだ。」
「小野さんって笠原さんの彼女の?容疑者にはなってなかったですよね。」
「それが、先生から言われて被害者の原さんと接点がない人を調べてたんだ。そしたら原さんとルームメイトの佐藤さん容姿が似ていてこの佐藤さん笠原の浮気相手ってわかってね。」
「人違いで殺されたんだよ。原さんは。小野さんは以前から笠原さんの浮気を疑っていた。直接本人に聞いてもはぐらかされていたらしい。けど、笠原さんのスマホをみて確信に変わったんだよ。自分の事は[小野真理(彼女)]ってなっていたけど他にマリちゃんって履歴があったから、そのマリちゃんが浮気相手だと思ったんだよ。実際にそうだったんだけど本当の浮気相手は佐藤麻里花。」
声のする方を見るとドアのとこに緒方さんが立っていた。
「先生!」
「豆くんは呼んだが小林は呼んでないよ?」
「実は、交通事故なんです。今回調べてほしいのは。」
「ただの事故じゃないと。」
「事故が起きたとこが変というか本当勘みたいなんですが。」
「詳しく聞こうか。」
持ってきたモカを淹れようと席をたちキッチンへ向かう。
「事故があったのは昨日。花屋の近くの交差点で起きました。」
「それって赤い車の?」
「うん。運転してたのはそこの総合病院の産婦人科医佐久間龍二。36才。亡くなったのは安部翔大。32才。多数人が居たんですが、ぶつかる前とか見た人はいませんでした。皆、ブレーキ音で気付いたようで。」
「その佐久間ってのは捕まったんだろ?」
「はい。轢いたのも認めていますが、普通事故って横断歩道とか右左折時の巻き込みとかっと思うんですけど安部さんがぶつかっていったようで。」
「当たり屋って事ですか?」
モカを差し出しながら聞く。
「調べたけど、他に事故に遭った形跡はなかったです。」
「医者の方は?」
「彼は無事故無違反のゴールド免許でした。」
「二人に接点はないのか調べておいで。」
「わかりました。」
そう言って小林さんは走り出ていった。
「美味しいよ。このモカ。」
「ありがとうございます。うちでも人気なんですよ。」
数日後、私は再びモカを持って緒方探偵事務所を訪れた。
「いらっしゃい。」
緒方さんが出迎えてくれ早速珈琲を淹れる。
「先生!」
勢いよくドアを開け小林さんが入ってきた。
「先生の言った通り二人には接点がありました。2年前なんですが亡くなった安部さんは当時妊娠中だった妻の由美さんを亡くしてました。歩道橋の下に倒れているのを女性が発見し救急車で総合病院へ運ばれてます。その時治療にあたったのが由美さんの担当医でもあった今回の加害者の佐久間でした。何か関係あるんですかねぇ?」
「なるほど。小林、出掛けるよ。豆くん悪いけど戸締まりして帰ってくれるかい。これ合鍵。次回返してくれればいいから。」
「わかりました。」
鍵を受け取ると、緒方さんは小林さんと出掛けていった。
ガスコンロの火を止め、インスタント珈琲の補充をしようと棚を開けると1枚の紙が落ちてきた。
「なんだろう?」
端に珈琲で出来たようなシミがあるが何も書いていない。
不思議に思いながらも元に戻して事務所を後にした。
部屋の中の探偵 不思議猫 @SO15
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