第一章2 星宮学園理事長


 時間には、やはり間に合わなかった。というのも、実は、高等部は、中学部より、一〇分早く集合しなければならなかったからだ。


 知らない校舎をウロウロしながら、学園に噴水があることに驚いたり、学食のスペースが広いことに感銘を受けたりしながら、ようやく職員室に辿り着いたと思えば、そこは、中学部の職員室だったり、ちょっとした災難もあった。


 そこにいた中学部の先生に連れて行かれ、ようやく高等部の職員室に辿り着いた僕は、担任の先生であろう人に、お小言をたくさんいただき、現在、理事長室の前にいる。


 といっても、叱られるとかじゃない。本当は、早く登校して、渡すはずだった物があったのだが、それを貰うためにすぐに、呼ばれたというわけだ。


 ちなみに、今から会う理事長というのは、香宮野の母親である。パンフレットで見たくらいで、全然面識はないのだが、髪は香宮野と違って茶髪だったのが印象に残っている。


 扉をノックしてから、「お邪魔します」と言って、ゆっくりと開き、また、静かに閉じて僕は理事長室に入る。


 目の前にある机には、誰も座っておらず、人影もない。留守なのか?と一瞬戸惑ったが、そんな心配は杞憂だった。


 「邪魔するなら帰りなさい」


 扉の裏から、女性の声が聞こえた。その陽気な声が聞こえた方を見ると、そこには、茶髪の女の人が立っていた。


 「なんて冗談冗談そこまで萎縮する必要はないのよ〜。まぁ、初日から遅刻するとは思わなかったけどね」


 「本当にすみません」


 僕は、パンフレットに載っていたその人におじぎした。身長は分からなかったが僕より少し高い。目線が少し上を向く。  


 それにしても、印象が違う。こういう冗談を言うようなイメージはパンフレットの時からなかったし、実際会ってみても、そんな気がしないのに、最初の第一声が「お邪魔するなら帰りなさい」だと誰が想像しただろうか。まぁ、ただの演技なのかもしれないが。


 「唯ちゃんから聞いてるよ。君も超能力者って奴なんでしょ。大変そうね」


 「まぁ、はい。実感湧かないんですけど」


 「そうなのね。私は、あんまり超能力者について知らないけど、まぁ、学園内ならなんとか私が揉み消せるから、困ったことがあったら、また尋ねてちょうだい」


 「はぁ...」


 色々含みのある言い方で、そう言った理事長少し邪悪な笑みをこぼしていた。香宮野の前に見せた笑みと一緒で、あの笑みは親の遺伝なのかもしれないと思った。


 「あ、っと。忘れていた。君にこれを渡さないといけないんだった。はい、これ」


 渡されたのは、透明のプラッチックの箱だ。中に入っているのは、バッチのように見える。


 「これは、校章だよ。毎日、登校する時に付けてきてね。はい、これでおしまい。大変だと思うけど頑張ってね」


 彼女は、僕にそれを渡して手を振る。僕は、理事長室から解放され、それから担任についていくことになった。僕の向かう先は、一年C組、そこが僕が入る新しいクラスだ。一つ大きく息を吸ってから、僕は教室の中に入る。新しい学園生活が始まることに少し不安を覚えながら、期待を胸に抱えて。

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