第七話
熱気球は空高く舞い上がっていく。
見上げる空はどこまでも広がっている。
高く高く飛ぶ熱気球。
偶然にも薄い雲が羽のような形をしていたためか、まるで熱気球に羽が生えたような光景が一瞬私の目に映る。なんかすごく神秘的でそこに天使でもいるんじゃないかって妄想をしてしまう。
そのことを慎太郎に話すと思いっきり笑われてしまった。
「おまえって結構ロマンチックやったとやな」
「はあ? それ彼女に対して失礼やん!」
「悪い悪い」
そう謝ってるけど、まったく反省してない。
ムカつくやつ。
なんでこんなやつに惚れたんだろうとちょっと後悔。
一瞬別れようとも思ったけど、なんだかんだで本気で別れるつもりはないんだよね。
ときおり失言することもあるんだけど、そういうこと含めて好きなんだもん。
そんなふうに考えている私の顔がなぜかニヤけてしまう。
「なんだよ。ニヤニヤしちゃってさ」
「べつに。あえていえば」
私は慎太郎の腕に頭を寄せる。
「慎太郎と付き合えてよかった。幸せばい」
「そっそう?」
「うんうん」
私が思いっきり笑顔を向けると慎太郎の顔が耳まで真っ赤になる。
「ああ。バルーンっていいなあ」
そして空を見上げる慎太郎の横顔がかわいくて仕方ない。
うーん。
こ〜ゆ〜かわいいところが好きなんだよねえ。
私は慎太郎の腕に手を回すと慎太郎と同じように再び空を眺める。
いい空だ。
どこまでも広い空。
本当にのんびりしてて
平和な空が広がっている。
なんてことをその時は考えたわけじゃない。
あとから考えたら本当に広い空だったなあというだけなんだよね。
熱気球に羽が生えたように見えたのは本当にとその時感じたこと。
だけど空の広さなんて当たり前すぎて考えることはなかった。
でも広さも平和だと思えたのも、今私の見上げる空がものすごく狭いせいもある。
高校を卒業した私は希望通り東京の大学へ進学した。
慎太郎は地元の大学に進学。
いわゆる遠距離恋愛だ。
遠距離恋愛なんて続かないと聞くけど、そんなことはない。だって毎日スマホ画面越しとは言え顔を見せ合っているからね。SNSという手段とはいえどもつながっている。
感染病もずいぶんと落ち着きを取り戻し、街中マスクたらけだった光景もずいぶんと見なくなっている。
私は大学の帰り道ビルの隙間から覗く空を見上げる。
本当に狭い。
狭い空だ。
久しぶりに広い空をみたいなあ。
そうだ。
バルーンフェスタの季節じゃん。
私はスマホで検索する。
やっぱり!
今年はある!
ちゃんとあるじゃん!
たぶん行けるわ!
よし!
慎太郎に連絡してみよう。
そう思って慎太郎のSNSを開こうとする。
その前にメッセージがくる。
慎太郎からだ。
なんだろうと開く。
『なあ。今度バルーンフェスタが通常開催らしいぞ。こっち戻ってこれねえ? 戻ってくるなら行かん?』
あらら?
これは即答ね。
『もちろん!』
シチメンソウ~その赤いじゅうたんが色づくとき~ 野林緑里 @gswolf0718
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