一話完結 ヒーローだって乙女です?
カッカッカッカ…と女子寮の一室。キッチンからボウルをかき混ぜる音が鳴っている
「チカちー、何してんのー?」
「あー!ダメダメ!ルリルリっ 何やってるかはもうバレたとして、ちゃんと渡すから中身までは見ない!おっけ?」
「おっけおっけ。しかしほほ~?忍ぶれど色に出でにけりわが恋は
ものや思ふと人の問ふまで、ですなー?
そっかそっかチカちーも年頃だもんねーうんうん。」
「何言ってるのか全然わかんないけどニュアンス感じた。
別に本命あげる人とかいないよ?これ全部友チョコだし。義理だよ義理。」
「えっ 恋するが乙女の本懐じゃないの!?チカちーヒドイ!」
「いやいや、あーしそゆのはまだいいかなーって思ってるし。
ヒーローだかんさ。ヒロインじゃいられないっていうか…
兎に角!今年は準備する人が多いしもう14日だし!あーし戻るからね!」
ぐいぐいとルリをキッチンから追い出してまた甘い香りと向き合う
現在絶賛チョコの湯煎中。それと一緒に鍋で生クリームを沸かして、あとで
今回は生チョコを作るつもりなのである。人気だし、時間に余裕もないので
というのも先日起こった地下鉄内部での妖魔事件。そこで怪我を負って医務室からようやく出てこられたばかりなのだ。あ、ぐっすり眠れました
「…うーん。まぁ満足かな。あーしの食べた一番のお店には程遠いケド。
しゃーない。だって作ってるのがあーしだしね。
さて、と?あとはラッピングして……。」
個別に箱詰めしていって簡単にテープで飾り付ける
「コッチは学校で配る分。これはすぐるんにでしょ?これはちゅーみん。るかみん。あっきーにこれは…ゆなさん。うひゃー今年は作ったなぁ。」
よし。あとは渡すだけ…あ。保冷バック。誰かに借りないとな
「よーっし、おっけ!ルリルリー!もういいよー。
ほいっ ま、改めましてでなんだケド
いっつもあーしを支えてくれてありがとっ!これからもよろしくっバディ!」
恥ずかしいけど一言メッセカード添えた贈り物で。ニッと笑って
「ありがとーっ!ねぇねぇこれ今食べちゃってもいい?」
「えっ?あーうん、いいけど。甘すぎたらごめんね?」
そんなこと気にしないってーと一口頬張って見せるルリ
うわ…いつもは何とも思わない癖に緊張すんジャン。そーいえばルリって神様だったわぁ…
「うん!甘くておいしい!やるじゃんチカちー!これ大事に食べるね。
それで!まだチョコ作った材料って残ってる?残ってるよね?」
「いやそんな大げさにってはい?んまぁだいぶ使っちゃったけどあと一人二人分くらいならあると思うよ。…何すんの?」
「お返しに決まってんじゃん!見てろよーすっごいのつくっからなぁー!」
「律儀だなぁ。…あ!それならその間にあーしチョコ配ってくるよ。
留守番お願いねー。」
「あいあいオッケー。ばっちり任せときなって。いってらっしゃーい。」
「いってきまーす。よろしくねー。」
エプロンまで着て気合の入ったルリを残して部屋を出る。さってと?誰から渡しに行こうかな?
「まずはすぐるんかな。ちゅーみんとあっきーは探せば見つかりそうだし。るかみんはいつでも連絡できるもんね。
となると、学校に寄れるから部活組には渡せるな。…よし。」
単純にルート組んで歩き出し、先ずは学校へ
荷物を軽くしてから同僚達を探し始める
「あ。いたいたーすぐるーん!はぴバレン……アッジャマシタ?」
まず見つけたのは義足の同僚。すぐるん。…だったんだけど誰かと一緒だった
え?ヤンキーって奴ジャン?カレシ?すぐるんそっち系?
「御機嫌よう千果咲さん。え。私にですか?ありがとうございます。これは後で頂いて、しっかりとお返しも…」
「ゴメンネ。あーしすぐ居なくなるかんさ。あ、チョコ。それ友チョコね。
ダイジョブ見てない。チョコ渡したけど見てないかんさ。んじゃ、あーし他の人にも渡しに行くからさ。ごゆっくり…オジャマシマシタ!」
脱兎。目をつけられたらヤバい気しかしない!さんじゅう…三十八計逃げるが勝ち!とかいうやつ!
「…えっ」
「……何あれ。知り合い?お前今なんか勘違いされたんじゃねぇの?」
「……えっ」
全力疾走で遠ざかっていく背中を道善義巳、志々岐優兄妹は呆然と見送った
「やっばやっば!今日の記憶どうしよ次あった時ちゃんと隠せるかなあーし。
…と。ちゅーみん!よかった見つかって…アッコッチモデスカ。」
次に見つけたのはよく食堂で一緒してるちゅーみん。あーしの大食いにもドン引きしないから気が楽…とかはどうでもよくって超美人さんと一緒ジャン?
モテんのは知ってたけど、ケドケドタイミングよ!
「おっ?チカじゃん。なんか急いでたみたいだけど俺に何か用?」
「アッウン。チョコをね?友チョコ。義理だよ?義理。渡しに。
義理だからね?あ、じゃあ義理チョコ渡しましたんであーしはこれで。
オジャマシマシタスミマセンデシタ!」
「俺に?くれんの?やった!無手丸さん俺チョコ貰っちゃった!
ありがとなチカ……あれチカは。」
「よかったですね。宙。 ?…それならばあちらに。頻りに無手を見ていましたがどうしたのでしょうか。」
「……あれ?」
またしても全力で遠ざかっていく背中に二人は首を傾げていた
「ッはーっ! ッはーっ! …なんで今日走ってんだっけ。」
峰柄衆のとある人を訪ねて天照内部。廊下でぐったり息を切らした
なんか無駄に体力を使ってる気がする。無駄に疲れてるよねあーし
ここにはあっきーを訪ねて来た。まぁ居なくても置いて帰ればいいでしょ
「こんちゃー、あっきーいる?」
「チカたんじゃん!なになに俺に何か用?あ、もしかしてチョコ渡しに来てくれたとか?いやーそうだったら嬉しいなーって……で、何の話だっけ。」
「いやまさにその通りなんだけどさ。あっきーは……ないよね。よし。良かったぁ~
いやぁーやっと真面目に渡せた気が……エッアッキーマジ?」
安堵したのも束の間。見つけてしまったのは本命っぽいチョコ…mjd?
「ちょっとアッキーペン貸して。チョコあげるけどこのままじゃアッキーが不幸になるし、あーしもそれに加担するのはヤダ!巻き込まれたくない!」
え、何が。と困惑するのも気にせず胸ポケットからからペンを奪い取り、自分の持ってきたチョコの箱に大きく「ギリチョコ!」と書いてペンと一緒に突き渡した
「はいコレ!出来れば持ち帰らずにここで食べて箱も捨てちゃってね!
…あ。それとこの前の装備ありがと。今多分あっきーのお陰であーし生きてる。
んじゃ!それお礼も兼ねてだから!また強化よろしく!じゃね!」
「あうん…。また来てねっ」
嵐のように峰柄の開発室を後にして次は待ち合わせの場所へ
次の相手はるかみん。天照に来る前に連絡しておいたからそろそろ…
「あ、千果咲。待ち合わせとしか聞かなかったけど何の用?」
「待った!……よし。るかみんはあーしの仲間だね。
おっけー。…ふぅ。やっぱチームメイトだね。すごい安心した。」
ぐるぐると周りを見渡して、持ち物チェックもする慎重さを見せて失礼ながら今日ようやくほっと安堵の息をつけたのだった
「失礼なこと言ってない?それで用って。」
「あーそれそれ!はいっ はぴバレンタイン!友チョコあげる!」
はいっと渡して呼び出してゴメンネーと付け加える
「ありがとう。これ手作り?…ごめん用意してなかったから。……あ、これ。遅れるけどちゃんと用意するね。」
お返しにポッケから出てきた棒付キャンディを貰ってしまった
「いやいやサプライズだし気にしなくてもいいよ?貰えるなら嬉しいから受け取るけどね!あーしよりるかみん料理上手そうだし?
っとそうだった。あーしまだ配ってる途中だから次行くね。じゃまた。」
手を振り合って、今日最後となるチョコを渡すべき人を探して寮へと戻る
配り終えたバックを自室に置いて、ルリにもう一度出かける旨だけ伝えて部屋を出る
「……う。今更ながらこれだけ特別な奴にしたの恥ずかしくなってきた。
本命じゃないのに…いやでもやっぱフツーの渡すのはなぁって。」
そんなことを言っている内に目的の人の住む部屋の前まで着いてしまって
謎の緊張をしながらインターホンを押す
「はぁーい。あれ?チカちゃんどうしたの?」
「いやー特別用があるって訳じゃない訳でもないんですけど…
えっと…あー……これ。作ってきたので受け取ってほしいなぁって…」
「え?あ!バレンタイン!ちょっと待っててね?今お茶入れるから」
「あいやいや!気を使わなくていいんです!渡しに来ただけなので!!
えとその…んと…甘く作っちゃったから口に合わなかったらごめんなさい、じゃなくて。んー!あーしらしくないっ!」
ぱんっと頬を叩いて気合を入れて
「こんな日だから言うんですけどあーし、ゆなさんにメッチャ憧れてますっ
あーしがヒーローになろうと思ったのもヒーローでいられるのもゆなさんのお陰です。
だから…えと、これからも応援してますっ!」
驚いている顔に身勝手な笑顔を見せて走り出してしまう
「…っべー。はっずい。」
口が変な形してる気がして手の甲で隠しながら走る。頬が熱い
「えっこれどうしようかな。んーまだまだ踏ん張らないといけないかな?
…あっチカちゃんのチョコ美味しそう。」
取り残されたヒーローは走り去っていくヒーローの卵を優しく見送っていたのかも…しれない?
【創作企画】刀神・参加作品 短編集 @GAU_8
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