第二幕 旋風にヒーローは我ありと叫ぶ


「ルリルリぃ!今何キロ!?」


非常灯だけが照らす暗闇にトンテンカンと鉄を踏む音が響く


「もうちょい先ー!ねぇ、やっぱウチが抱えて飛んだ方が早いってチカちー!」


「だぁめぇ~ッ!!そしたらコイツら見落としちゃうし!あーしがそれは許せない!」


瑠璃の炎を纏った大太刀を構えてまた妖魔の群れに突っ込む

突然、猫に襲われた鼠のようにキィキィ鳴き声が上がってJKはひた進む


「これで3つめ!?どんだけいんのよちょっとキモい!!

イタチだって言うから可愛いかと思ったのに全然カワイくないし!」


強化を施して貰いサイズもピッタリ、おニューのヒーローコスに身を包み

自称:ヒーロー、姫野千果咲は走っていた

最終列車の去った後。緋鍔局から門の発生予測と現場から鎌鼬の大型個体が発生したとの報告が入った。無論、ヒーローは食いついたのだった


「チカちー。そのままだと辿り着いた時バテてんじゃね?だいじょぶ?」


「ダイジョブ!だいじょばなかったとしてもダイジョーブ!ルリルリがあーし支えてくれんでしょ?なら無敵ジャン!


あーしフルパワーだよ信じらんない!」


そのまま鎌鼬の群れを二つ吹き飛ばしてイノシシJKが現場に到着、前線合流

しかし、そこに他の刀遣いの姿はなかった


「「……マジ?」」


発生した門から出て来たと思わしき二体の大型妖魔が振り返る

大型鎌鼬の推定危険度は確か丁。実力肆段の刀遣いにとっては十分に脅威足り得る


「やばたにえーん!急ぎすぎたぁ!!」


「…あ。いや違うわこれ。ウチらの狙いはこの先。新しく発生しちゃったみたいじゃん?」


「マ?ならやったるしかないジャン?ヒーローの人生は晴れときどき大荒れ!いいね!いい人生だよっ!」


流れた汗はそのままに一回深呼吸。大型犬くらいはあるかな。いや、キモいしデブいし豚…?


見た目はもういいか。あーしにできる事は真っ直ぐ行って!斬るだけ!


「チカちー!だらっしゃあーーーい!っぶねー!」


「……ってムリムリムリムリ!これはムリ!速すぎ!見えなぁい!!」


ごぉ!と吹き上がった瑠璃の炎が鎌鼬の風に巻き上げられてトンネルを派手に照らした。壁際まで軽々と吹っ飛んだ刀遣いはここ一番に引き攣った顔を見せていた


ルリルリの炎は浄化の炎。本当は刀に纏わせて相手を焼き切る異能だけど、こうやって好きな所から噴出して使うこともできる。今回はあーしじゃなくてルリルリがやったんだけど…威力も落ちるし目晦ましくらいにしか使えないものだ

それに疲れる!


「あーし今噛まれた?切られた?それとも吹っ飛ばされた?

あっきーにマジ感謝。生きてるよあーしぃ…。」


「ウチにも感謝して!ウチ!守ったのウチだかんねー!?」


「もち!もち!勿の論ジャン!ありがとー!マジ感謝ぁー!!」


っとこんなことしてる場合じゃないと飛び起きる。既に鎌鼬は獲物を見る目になっていてこちらの些細な動き一つさえ見逃さない姿勢だ

ピンチの時こそヒーローは強くなる。あーしは出来る子だ


「もいっちょー!砕くまで当たって突き抜ける!!」


愚直なまでの突進。目で捉えるのは多分ムリ。ならやられるって思った瞬間に


「斬ればいいってね!!黒天狗大先生…に毎回転がされて覚えたグゥヘ!???」


油断大敵。上手くいった時こそ気を引き締めろ。それを忘れたあーしのミスだ

多分…ぶつかってきたんだと思う。一匹は斬ったから見えてなかった二匹目

あーあ。何回弾んだかな?全身擦り傷アザだらけだよきっと。それだけで済んでるといいなぁ…


「!!? ッ…!! こんのっ!チカちーに近づくな!


チカちー!チカちー!!チカちー!!!」


自分を守るように炎のカーテンを広げたルリがすっ飛んでくる

ぶんぶん振り回されると頭揺れて気持ち悪いんだケド…


「…! よかった。よかったよぅ…ウチぃ……」


「ルリルリが支えてくれるから無敵だっていったジャン?ヒーローはこんなところで倒れられないって。」


「…駄目。逃げるよ。アイツが怯んでる間にウチが運ぶから、さ!立って!」


引っ張り起こされてどうにか立ち上がる。そして、支えてくれたルリを軽く突き放す


「…ダメ。ヒーローは一度立ち向かった相手には絶対に背を見せちゃダメジャン?大丈夫、大丈夫だからさ。

ルリルリ。今はあーしをヒーローでいさせてよ。」


「ズルいじゃんそれ。でも、ヤバくなったら気絶させてでも連れ出すから。」


「そん時はあーしを任せたっ でも、今のでちょっと見えた気がすんだよね?

ルリルリ。もっかいさっきの奴ってできる?」


「さっきのって…ばぁーー!ってやるやつ?」


「そ!コイツ速すぎてあーしじゃ見えないケドさ。炎の中なら見える気がすんの。だからよろしくっ!」


よーっしやったろうじゃん!と意気込むルリに感謝して呼吸を整える

正直一か八かだけど挑まずに倒れるくらいなら挑んで散った方が十倍マシ


ごぉ!と炎の円が広がる。流石に向こうも慣れちゃって足止めくらいにしかならないみたいだけど…十分!


「見えてないけど見えたぁ~~~!!チェストぉ!!」


炎の中に飛び込んでくる瞬間。揺らめく炎が一段高くなった所へ刀を突き出す

飛び込んでくるなら斬るより突く方が効果がある!……ハズ


突き出した大太刀は確かに鎌鼬を捉えてはいたが、その巨体を撫で斬りにするように流れていき、結局千果咲はもう一度鎌鼬の生み出した風に吹き飛ばされることとなった



生気の消耗過多でついに動けなくなった行き当たりばったり刀遣いはバディに抱えられて来た道を文字通り飛んで逃げていた


「正義は勝つってね!ヒーローはこれくらいじゃヘコタレないんだかんねー!」


「はいはーい。チカちーはこのまま医務室行きですべー」


「……えっ」




鎌鼬は地を駆ける ~fin?

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