第一幕 食欲は鎌鼬の噂に勝るか?


「…これでこちらの書類は受理したことになりますが、危ないことはしないで下さいね。それと!他の生徒に刀を触らせることは厳禁です。見せびらかしたりもしないこと。いいですね?姫野さん」


「分かってますー。もし触らせちゃったらあーしもクビだし、ルリルリも傷つくしでぜったいしないってセンセー」


「はぁ…そんな態度だから心配なんですよ。あぁそれと、大事な仕事なのは分かりますが学業も疎かにしないでくださいね。古典の課題も。…期限はもう過ぎてますよ。きっと立派な内容になっていると期待しています。


さ、この話はおしまい。あまり遅くまで校舎に残らないで下さいね。部活に参加するようでしたら遅刻の証明。書いてあげますよ?」


「んーんや、今日はもう帰ります。天照に寄っていろいろ聞いておきたいことあるんで。ってことで今日はおやすみってことにしといてください」


課題と聞いて苦い顔をしたり、数秒後にはけろっとしていたりと表情をコロコロ変えながら職員室を後にした。先生に渡していたのは刀の持ち込み許可願。天照に所属している刀遣いであっても自由に刀を持ち歩ける訳じゃないのだ。

…少なくともあーしは。


「古典の現代語訳の課題。ルリルリに聞けばラクできんじゃね?あーしってば天才か?部活出たくないだけだったけど言ってみるものジャン?

今日は面参道に行く予定だしパフェ奢りでおっけーしてくんないかな?」


そんなこと言ってる間に下駄箱まで付いて、外靴に履き替えてる間にすれ違った子と「また部活休み?ずる~い!」「ごめ~んヒーローは忙しいんだ!」なんて冗談飛ばして帰り道。天照に申請通ったの報告して、借りてた豊和返してルリルリ迎えにいかないとな。



バーン!と寮の玄関を開けて一枚の紙面を見せながらキメ

今はあーしとバディのルリルリと一緒に住んでるのがこの天照の女子寮ってワケ


「ちぃーすルリルリー外出許可取れたよーっ」


「おっナーイス!チカちー!今日はどっこ行く?胴座であんみつ?朝草で食べ歩きとか渋冶でカフェもいいよねー!」


「ざっんねーん!今日は面参道であーしとお仕事でーす!

そのあとでクレープ食べよ?んでんで、ちょっちピンチだから助けてー…」


「そのクレープいいね!した! なぁにチカちー財布ピンチなん?ウチに頼っちゃう?」


「いやいやルリルリのってあーしからのお小遣いジャン?って違うってば。

古典の課題がさーまだいいやーって思ってたらもう提出期限過ぎちゃってたんだよね。ってことでお願い!ルリルリこういうの得意っしょー?

今日はあーしがクレープ奢るからさっ お願いお願いっ!」


ぱんっと手を合わせてウインク。これで決まりっしょ!

ちらっと薄目を開けると腕組しながらふよふよ浮いてるちょっと危ない着崩しコーデの刀神トージンサマ。あーしもあれくらいスタイル良かったらなぁ…


「んーー…っふっふっふー。どうしよかなー?」


「えー…ジらさないでよー。そういうルリルリマジ最の低だぞっ」


「分かった分かったってーんじゃ!映えるお店案内シクヨロっ!」


「いえーい!ルリルリ愛してるぜッ!そーと決まれば膳は急げジャン?

竹刀袋どこだっけ?課題は机にそのままだったんだよねー」


スクールバックから諸々引っ張り出したり詰め込んだりして持ち物チェック

帯刀許可証ヨシ。課題ヨシ。財布ヨシ。スマホ…もう持ってる。ヨシ。


「ほいっチカちーウチをお忘れじゃダメダメじゃん?」


「ありがとー。よーし っしょ!行きますか!」


「行っちゃいますか!…あれ?コッチに着替えなくていいのー?」


竹刀袋を受け取って肩提げにする。ほれほれとあーしのヒーローコスを指差すのを見て「あー…」っと声が漏れる


「あー…今回の妖魔って昼間は出てこないらしいんだよね。夜とかムリムリだからあーしは見回り組。目立っちゃマズいっしょ?ちと残念だよね」


「なーる。潜入捜査って奴?メチャ燃えるじゃん!続くハプニング!恋も物語も盛り上がりは最高潮!今正に事件は会議室で起きてるんじゃない現場で起こってるんだ!」


「ナイナイって。そもそもあーしカレシいないし。ほらっ!置いてっちゃうよ?ルリルリっ!」


「チカちーウチ居なかったらなーんも出来ないじゃん?こら待てー!」




―― 鎌鼬は地を駆ける 続

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る