ピアニストに恋する、パトロンの娘。
まだ大人になりきれていない女の子は、ピアニストの彼が憧れている女性に嫉妬して――。
短編の中に、非常にうまく物語がまとまっていると思います。
子どもらしい嫉妬や、ピアニストの彼の葛藤など。短い話の中でよく表現されていると感じました。
彼は彼女を置いて旅立ってしまうけれど、「きっとまた彼女の元に戻ってくるのだろう」という不思議な確信があり、「悲しい失恋の話」になっていないところがいいと思います。
一点だけ物足りないな、と個人的に感じたのは、「音楽自体の表現がない」点です。
曲名は出てくるのですが、その曲の描写がない。
「壮大な曲」「明るい曲」など、曲調や背景を表現する一文が入ると、より具体的に曲を感じることができるのかなと思いました。
彼の憧れの人が望む「ショパン」
その憧れの人を攫っていってしまった男が得意とする「ショパン」
彼が娘と約束した「ショパン」
ひとりの作曲家の曲が、様々な感情を伴ってピアニストの男と周囲を繋ぐ。
素敵なお話です。