第5話(1/3) それ言っちゃダメなやつでしょっ!
◆ ◆ ◆
「とうとう
ある日の昼休み。学校の中庭のベンチに並んで座る俺にニヤニヤした顔を向けてくるのは
もうすぐ訪れる
悠斗はなにやら嬉しそうだけど、違う。
「告白するつもりはない」
「なんでだよ? 好きな娘の誕生日にプレゼントを贈るってことは、そのまま告白するってことだろ?」
「そんなんじゃない。普段、飯をつくってもらったりとか世話になってるから感謝するだけだ」
「ついでに告白しろよ? 絶対に断られることなんてないだろ?」
断られることがないのは分かってる。
亜月の心が読めるんだから、そんなのは当たり前だ。
でも俺はちょっと不安になる。
「俺と亜月ってそんなに仲良さそうに見えるか?」
「今さら何言ってんだよ?」
俺の疑問を聞き、悠斗は目を見開く。
「さっさと結婚しろってみんな言ってるぞ」
「まじか……」
それはまずい。
そんな風に見られないために入学前にルールを作ったはずなのに、このままじゃまったく意味がない。
この会話をきっかけにさらに変な噂を流されないためにも、とりあえず悠斗にだけは否定しておかなければならない。
「言っておくけどな、俺と亜月はそんな関係じゃない」
「だからそれは陽大が告白しないからだろ? さっさとしろよ。ほかの男にとられても知らないぞ」
「もしかしてそんな話があるのか?」
「当たり前だろ。サッカー部の連中からお前のクラスのあのかわいい
「かわいい娘って亜月のことか?
「紗羽ちゃんのこともたしかに
「そうだったのか……」
もちろん俺だって亜月のことはかわいいと思っている。
でもほかのクラスの連中からもそんな風に見られていたというのは想定外だった。
「驚いてる暇はないぞ。さっさと覚悟を決めろよ」
「亜月から告白してくれたら、俺はOKする準備ができてるんだけどな」
「いつまでそういうことを言うんだよ?」
「いいだろ。それよりプレゼントは何がいいんだよ? 悠斗は自分でモテるっていうぐらいだからたくさんもらってるんだろ。今までもらって嬉しかったのは何だ?」
いい加減、話の行き先を変えたくて俺は一息に告げた。
悠斗はそんな俺に呆れたような視線を向けてきたけれど諦めたかのように小さく笑う。
「何でもいいんじゃねえの」
「ここまで話を引っ張っておいて肝心なところで面倒くさがるなよ」
「違うって。俺が言いたいのは、陽大がちゃんと心を込めて選べば何でもいいってことだよ」
「そうか?」
「なっ、いきなり何するんだよ? やめろって」
俺に手を払われた悠斗は
「だって亜月ちゃんは陽大が選んだものなら何でも喜んでくれるだろ? どんなものをあげても『ありがとう』って言ってくれるような娘だろ?」
「それは……そうかもしれない」
「だから陽大は亜月ちゃんのことが好きなんだよな?」
「そんな話はしてない」
「まぁそれはいいや。適当に選べばいいんだよ」
「適当って言われてもな」
「とにかく、俺から言えることはそれだけだ」
立ち上がった悠斗につられて俺もベンチから腰を上げる。
「けど、黙ったままで今の関係がずっと続くなんて思うなよ」
俺に背を向けて言う悠斗に、俺は「分かってる」とだけ返した。
ところ変わって。放課後のオカルト研究部の部室。
担任から雑用を頼まれた亜月がいない隙を狙って俺はセアラに同じ相談をしていた。
悠斗が俺に伝えたかったことは分かった。
ちゃんと心を込めて選べば亜月はたぶん何でも喜んでくれる。
でも、それでも外れってのはあるんじゃないかとどうしても思ってしまう。
そんな俺の悩みに対するセアラの答えは、
「あーしに訊かなくても分かってるでしょー?」
いつものようにスティックの付いたキャンディーをなめながら、ジトっとした視線を投げかけてくる。
「分からないから訊いてるんだけど」
「そっかー」
「そっかー、じゃなくてだな。俺はほんとに困ってるんだよ」
「だいたい1カ月分らしいよー」
「何の話だよ?」
「相場の話だよー」
「さっきから何を言ってるんだよ?」
「だから決まってるでしょー。婚約指輪の相場だよー」
「へえ、最近は安くなってるんだな」
「でしょー、一昔前は2か月分とか3か月分とかだったらしいけどねー」
「景気の良かったころはそれはそれで大変だったんだな。……って違うだろっ! 俺は亜月の誕生日プレゼントは何がいいかって訊いたんだけど」
「だからー、婚約指輪でいいじゃーん」
まったく、こいつはいつもこうだ。
セアラに相談した時点でこんな答えが返ってくるのは分かっていたけど、ほかに相談できる人がいないから仕方がない。
ちなみに姉ちゃんにも訊ねてみたが、返答は「新しい包丁とかお鍋とかはどうかな?」だった。
自分が留守の時に亜月に料理をさせようって魂胆がみえみえですぐに却下した。
「どうせいつかは贈ることになるんだからー、善は急げでしょー」
「そうはいかないだろ。実際使う時にデザインが時代遅れになってたら嫌だからな」
「あっ、いつか贈ることは否定しないんだー。へー、そっかー。うんうん、いいじゃーん」
適当に返事をしたら思いっきり墓穴を掘ってしまった。
「とにかくっ! 何を贈ればいいのか真面目に教えてくれよ。引かれなくて、しかも程よく喜んでもらえるぐらいのものがいいんだけど」
「程よくってのが中野っちらしいねー」
セアラはからかうように「イシシ」と笑う。
「はぁ。やっぱり俺が間違ってた。セアラになんか相談するもんじゃないな」
「ひっどーい。自分から相談しといてそんなこと言うんだー」
「だって真面目に答える気なんてないだろ?」
口を尖らす俺にセアラは「じゃあこうしよー」と手をたたいて立ち上がる。
「なんだよ、いきなり?」
「今から中野っちとあーしで一緒に買い物に行くよー」
「……急だな」
「どーせ、ここでうだうだ話しててもいいアイデアは出ないからねー」
「うだうだ話してたのはセアラだけだろ?」
「はっ、なんか言った?」
語尾を伸ばすのを突然やめて冷たい声を出したセアラに、俺の背筋が伸びる。
なまじギャルっぽい見た目をしてる分、セアラが時たま見せるこうした姿は実はちょっと怖い。
「いや、なんでもない」
「でしょー。じゃー、さっさと行こうかー」
「でもまだ亜月が来てないけど」
「あづっちにはメッセージでも送ればいいでしょー。サプライズは大事だよー」
「まぁそうだな。あとで説明すればいいか」
セアラに同意して立ち上がった時。
「何を説明するつもりなの?」
部室の扉のところに亜月が立っていた。
「あちゃー、見つかっちゃったかー」
ぺチンとおでこをたたくセアラを見やってから、亜月は俺に顔を向ける。
「私に隠れて何かするつもりだったの?」
「亜月には関係ないことだ」
「へぇ、そんなこと言うんだ。でも陽大は私に隠し事なんてできないよね」
たしかに亜月の言う通り。
黙っていても心が読まれてしまうから亜月に隠し事をするのは難しい。
このままじゃ俺とセアラが2人で何をしようとしているのかがバレるのは時間の問題だ。
だから、
「セアラ、さっさと行くぞ」
「はいはーい。積極的な中野っちもいいねー」
「余計なことは言わなくていいから」
「そだねー」
俺とセアラは荷物をまとめて部室から出る。
「えっ、2人でって、ほんとに何するつもりなの?」
不安そうにしている亜月には悪いけど、今はどうしようもない。
》悪いけどって、もしかして……ヤラシイことじゃないよね?《
「それはないっ!」
「そっか……」
重大な勘違いだけは否定して、俺は校舎の外へと急いだ。
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