第3話(4/4) 婚姻届はいらないからっ!
◆ ◆ ◆
セアラが部屋を出ていって5分。
成り行きで入学式の時のことはなかったことにするってことにはなったけど、どうにもすっきりしない。
たぶん
「もういいって言ったでしょ。ルールはルールなんだから」
亜月は、そう声に出して伝えてくれた。
別に頭の中で考えるだけでも俺には伝わるのに、わざわざ言葉にしてくれた亜月の誠意というか優しさに応えたくて俺は亜月の目を見つめる。
「……悪かった」
「なんで
「分かってる。でも……」
どう伝えればいいのか分からなくて、俺は口をつぐむ。
きっと間違いのない答えは、俺の中にある。
言葉にしようと思えば簡単にできる。
それはたった二文字の単語。
黙ったままの俺を亜月も真剣な表情で見つめ返してくれている。
やっぱりちゃんと口にするべきなのだろうか。
変な意地をはって、このままだらだらと中途半端な関係を続けていたらいけないんじゃないか。
そんなことを考えていると、亜月ののどが、か細く震えたのが見えた。
》……何を言いたいのよ?《
伝わってきた思いは、声じゃないのに震えているかのようだった。
亜月も覚悟はしているんだろう。
だったら……
「お待たせー。って、真剣な表情で固まってるけど、どうしたのー?」
能天気なセアラが沈黙を打ち破った。
いや、打ち破ってくれたというべきか。
覚悟ができてないわけじゃないけど、まだ今はその時じゃないって気もする。
正直、助かった。
安堵する俺を亜月が無言で睨んできてるけど、まぁ今はいい。俺が謝ったことは伝わってたみたいだし。
「別にどうもしない。それよりセアラは何を取りにいってたんだ? 書類がどうとか言ってたけど」
「そうだよー。はい、これー」
そう言ってセアラは俺と亜月に一枚ずつ書類を手渡した。
A4の半分ぐらいの大きさで、上の方に「入部届」と記されている。
俺が口を開く前に亜月がセアラに訊ねる。
「どういうことなの?」
「どうもこうもないよー。書いてるでしょ、入部届ってー」
「書いてるけどさ、私は部活に入るつもりはないし、そもそも何の部活なのよ?」
「そんなの決まってるじゃん。あづっちと中野っちを誘うのは――オカルト研究部だよー」
さも当たり前のことかのように言い放つセアラに亜月は眉をひそめる。
「オカルト研究部って何なの?」
「えっとー、オカルトを研究する部、みたいなー?」
「訊いてるのはこっちなんだけど」
「だって2人はテレパシーみたいなのでつながってるんだからー、2人のためにもそういう部がいいかなーって思ってさー」
「セアラはオカルトに詳しいのか? そんな話聞いたことないけど」
首を傾げる俺にもセアラはまともに取り合わない。
「詳しくはないけどー、たまに雑誌は読むよー。あの何だっけ? なんかマ行の文字を伸ばすやつだよー」
「いや、絶対何も分かってないだろ?」
「まぁまぁ、細かいことはいいでしょー。大事なのはこのオカルト研究部をちゃんと設立することなんだからー」
「設立ってことは、もともとはない部なのか?」
「うん、そうだよー。だから2人には入ってもらわないと困るんだよねー」
「困るって?」
俺と同じ疑問を抱いた亜月が口を挟んできた。
「部というか正式には同好会なんだけどー、3人いないとできないんだよねー」
「はぁ、そういうことなのね。……でもどうしてわざわざ部を作ろうとしてるの?」
「だってー、部室があれば便利でしょー。ちょっと授業をさぼりたい時とかに使えるしー。それに昼ご飯を食べたりもできるねー。あづっちと中野っちも教室よりも部室でご飯食べれたらいいと思わないー?」
授業をさぼるのはいかがなものかと思うけど、自由に使える部屋があると便利だというのには納得する部分もある。
俺と亜月はルールを作ったけど、今日1日過ごしただけでほころびが出ている。
教室を離れて過ごす時間は必要かもしれない。
》陽大と2人っきりになれる場所、か。いいかもしれないね《
「いやセアラも部室は使うからな?」
「ふぇっ!? ……ごめんちょっと変なこと考えちゃってた」
まったく。そんなに慌てるなら余計なことを考えないでほしい。
でも思わずそんなことを考えるなんてやっぱり亜月はかわいい。
「だからっルールっ!」
顔を俯けながら亜月は俺に抗議する。
「今のはおあいこだろ?」
「それは……そうかも」
「さっさと婚姻届書いちゃいなよー」
気付けばセアラが俺たちのことをニヤニヤして眺めていた。
「だからそれはもういいから。でも入部届は書くよ」
「うん、私も。部長はセアラでいいんだよね?」
「いいよー」
セアラが頷いたのを見て、俺と亜月は入部届の必要事項を記入する。
といっても名前と学級ぐらいしか書く所はないのですぐに終わった。
「これでいいのか?」
「どれどれー? うんいいねー」
俺と亜月から入部届を受け取ったセアラはそう言って立ち上がる。
「じゃあこれでオカルト研究部は発足だねー。2人ともよろしくねー」
「よく分からんけど、部室は自由に使っていいんだよな?」
「そだよー。鍵は職員室にあるからねー」
「じゃあ今日はこれでおしまいでいいの?」
「うん。帰ろっかー? それとも私はお邪魔虫かなー?」
ケラケラ笑うセアラ。俺と亜月は目を合わせてため息をつくと、「さっさと帰るぞ」と声をかけてセアラとともに帰路に就いた。
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